絵を描くとき髪が邪魔だと言った彼女にじゃあなぜ髪を伸ばしているのか尋ねたらきょとんとした顔であなたがきれいって言ってくれたからよと当たり前のように言われた。 「…は?」 「なによ、覚えてないの?」 「や、覚えてるけどさ」 確かにあのときそうだ、すきな画家が母親の同級生の妻とかで展覧会に呼ばれて喜んで行ったとき彼女に初めて会ったんだと覚えてる。そうでもあのとき僕は双子一緒にいたんだけど。 「なんで僕だってわかったワケ」 「なんでわからないのよ」 心底不思議そうなnameはそういえば一度も僕たちを間違えたことがないし、教えなくても見分けることができた唯一の他人だった。 「金髪のママと黒髪のパパなのにあたしはマロンでしょ、きらいだったのよ」 「短かったよね」 「でもあなたが色がきれいだって言うから伸ばしたの」 「それはどうも、気に入ってるよ」 長い癖のある髪を後ろから手で梳きながら色づいていくキャンバスを眺めながらさっきの言葉を反芻してたらふと思いついたから立ち上がってちょっと待ってと言い残してアトリエを出た。 「これで前髪上げちゃえば」 「リボン…」 「nameにあげる」 前にこの薄いマロンに似合いそうだと思っていたリボンを持って戻ると彼女はひどくうれしそうに笑ったから少し気恥ずかしくなって膝の上に長いエメラルドグリーンを落とすと華奢な指がするりとそれを取り上げて器用に前髪を上げた。 「ありがと」 「どういたしまして」 望むのなら、あげるよ。なんだって (09.1.5/11.12.24) |