ヴェールをかぶったビアンキが呆れたように首を傾けた。うつむいた俺の視界に彼女のほっそりした手と、握られたティッシュが差し出される。

「とりあえず、鼻はなんとかしなさいよ」
「う゛ん…ごめん」
「そう思うのなら涙を止めて」

ずずっと鼻をかむ俺の背を、彼女がさする。
珍しく彼女が優しくしてくれているのに、俺の涙は止まる気配がない。

「全くもう……」

呆れた声を出しはするけれど、ビアンキはいつものように舌打ちもため息もつかなかった。それが余計、俺の心に突き刺さる。…決してマゾだってわけじゃない。断じて。

「貴方、そんなんでよくボスやってけるわね」
「ビ、アンキが、いたから」
「私はボンゴレで、ディーノ、貴方はキャバッローネでしょう」
「でも」

ずびずびと、鼻をすするとまた彼女がティッシュを寄越してくるのに感謝する。
かみすぎた鼻が痛い。きっと赤くなっているだろうなあ、と思う。
この、よき日に。

「本当、しようのない人」

確かに、呆れた声ではあったけれど。今日に限って俺を邪険に扱わないビアンキは、ゆっくりと俺と目を合わせた。彼女の眼差しまでもが、優しく細まっている。
長いまつげをくるんとカールさせて、目元にかわいい色を入れ、くちびるにうつくしいつやを乗せて、長いローズグレイの髪を男の俺にはよくわからないくらい精巧にアップさせたビアンキは、俺の頬を両手ではさんで微笑んだ。

「貴方のこと、嫌いじゃなかったわ」
「……俺は、お前を。愛して、いたよ」
「…ありがとう」

ビアンキがうつくしく微笑んだ。
でも、それでもお前は、おれを選ばないじゃないか。白いドレスを着るのも、ピンクを基調としたメイクをするのも、幸せそうな、うつくしい顔で俺に微笑むのも。
ビアンキは、黒や青のドレスを着て、紫のメイクをして、毒々しく俺に笑う。そうだったのに。

「泣き止んで頂戴、ディーノ」
「涙が、止まらないんだ」

俺の何回もの「好き」は、アイツのたった一度だけのそれに、決してかなうことはないのだ。





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タイトルはにやりさんからいただきました。


(12.2.4)



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