私が外の部屋にいることを、どうしてこの男は知っているのだろうか。 「ビアンキ」 「ディーノ。とても邪魔だわ」 「仕事は終わったんだろう?」 湯がいたアスパラと、一口サイズに切り分けた真っ赤なトマトと真っ白なモッツァレラチーズ。軽くオリーブオイルをかけるのが、私の好きな食べ方だ。 小さなキッチンから皿を持ってベッドの方に行きたいのに、ディーノが壁に片腕を寄りかからせて道を塞いでしまっている。 私はアスパラからあがる湯気を見ながらため息をついた。 「終わったから、ゆっくりしているのだけど。…どいて頂戴」 「ビアンキ」 「ディーノ、邪魔よ」 冬にサラダを食べるのは体を冷やすからよくないから、こうして温野菜にしたというのに。 私はアスパラの湯気を気にしながら苛々と言い募る。 「通れないの。私、お腹がへって死にそうだわ」 「それなのに、これっぽっちしか食べないのか」 「これで十分よ」 アスパラの湯気が消えてゆく。なおも動こうとしないディーノに、私が舌打ちして彼を押しのけようとした時、ディーノが急に私の手首を掴んで引いた。 「ちょっ」 「やっと見た」 手から離れかけた皿はディーノの手に移動していて、思わず見上げたディーノは私を呼んだ。 「ビアンキ」 「…なによ」 「ダイエットをするのに、一番効率の良い時間帯を知ってるか?」 「食事の前でしょ」 皿をテーブルに置いたディーノは、私の手を掴んだまま「正解」と笑った。 「最低ね」 ディーノのキスを受け止めながら、私は冷めたアスパラのことを想像してうんざりした。 きっと次からはサラダにしよう、と思いながらも私はまたアスパラを湯がくのだろう。 うまくいかない (12.1.31) |