!あまりきもちのいい話ではないです


はい、と書類を手渡した瞬間、しまったと自分の失敗に舌打ちしそうになった。
案の定、隠そうとする前にディーノの品の良い眉がぎゅっと寄せられる。

「ビアンキ」
「…なにかしら」
「手が」

書類ごと、腕を引き寄せられて、私は逃げ場をなくしてブーツのかかとをこすりあわせた。ディーノは書類を取り上げてデスクに置くと、私の手のひらをそっとなぞる。

「皮がひどくむけてる」
「いつものことよ」

毎年冬になると、私の手のひらは(そう、なぜか手のひらだけが)ガサガサに荒れて、皮がむけてゆく。ハンドクリームをこまめに塗ったところで、それがなかったためしはない。

「しかもおま、これ自分でむいてねえか?」
「だって鬱陶しいじゃない」
「いや、なんか無理やりむいたっつーか剥いだ感満載な部分があるっていうか…」

ぼろぼろに硬質化したところから勝手に剥がれていく皮は、もちろん手のひらにあったのだから、まだ剥がれない部分とつながっている。それが鬱陶しい。

「だって、手のひらで死んだ皮をぴらぴらさせてるのって気持ち悪いじゃない」
「いや、…うーん……」

そうなのかなあ、とディーノが深く考え込んでしまったから、私はようやく彼から右手を取り戻した。
さっそくぴらっと浮いている皮を見つけてそれを睨みつける。

「脱皮と同じよ。手のひらだけ脱皮するの」
「おまえは蛇か」
「あら」

抱えていた頭を上げて困った表情のディーノに、私は珍しくからかうように微笑んだ。

「蠍だって、脱皮するのよ」


脱皮期間


(12.1.11)


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