少し肌寒く感じて、浮き上がった思考に瞬くと途端にキスが降ってきた。くすぐったさから身をよじると、決して太くはないくせに筋肉のついた腕が、壁と引き締まった体の間に私を閉じ込める。

「Fermo, Dino! くすぐったいわ」
「Buon giorno, Tesoro. もう起きたのか?」

ディーノの刺青の入った方の手が私の髪を梳くように撫でる。私はやめて、ともう一度言いながらくすくす笑った。ディーノの言う「ハニー」は耳に心地よくて、彼にぴったりで、たとえば昨日のパーティに参加していたセニョリーナたちが言われたかったであろうその呼称を私は今独り占めしている。

「もう…って、もう朝よ。そんな早い時間でもないわ」
「そうかな。もう少しこうしていたいんだけど」
「あら、贅沢ね、Capo?」

ドンがパーティの翌日だからってお寝坊してもいいのかしら、と見上げると、ディーノは急にいつも通りのヘナチョコな表情でだらっと私にもたれるようにのしかかってきた。

「だって俺、ナターレから新年会までずっとパーティ出ずっぱりだぜ?もうむり!」
「ツナだってそうじゃないの。毎年年末年始はこんな感じだし、あなたはもう慣れたでしょう」
「ビアンキー」
「甘えた声を出すのはやめて」

甘ったれた男は嫌いよ、と言いながら厚い胸板を両手で押す。びくともしないディーノは私の冗談めいた言葉に苦笑しながらまた顔を近づけてきたから、今度は私が頭を起こしてあげた。

「今日は挨拶回りでしょう。私も隼人たちとロビーで待ち合わせているから、準備しなくちゃ」
「ええー」
「ディーノ」
「わかってるって」

だだっ子を黙らせる方法はひとつ。目に力を入れて、じっと見つめるだけ。
ディーノは降参、と笑って上半身を起こした。それから私の両手を掴んで起こしてくれる。私が白いシーツをベアトップのように巻きつけていると、バスローブを羽織ったディーノが「ビアンキ、」ベッドに片足をついた。

「ディーノ!」

私が怒る声もきかないで、ディーノがぎゅっと抱きしめてくる。いつの間にかまた天井を向いていて、さすがにこのままもう一回はないとはわかっていても、思わず目の前の金髪を殴った。

「いってー!」
「いい加減にしてったら!」

私はコーヒーが飲みたいのだ。時間までディーノとこれ以上ベタベタしている気はない。
けれど、そう言おうとした口はディーノと目を合わせたら止まってしまった。
目に力の入った、笑顔だった。

「あいしてるよ、ビアンキ」

ずるいわよ。
男に絆されるなんて、死んでもご免だけど、ディーノのこういう表情はたまにずるい。
私が朝のコーヒーをあきらめて、ディーノを引き寄せた瞬間、パッと扉が開いた。

「ディーノさん、ビアンキ見ませんでしたか…って、」
「あ」
「あら」

入ってきたツナはボッと赤くなって固まった。バタバタと走ってくる静止する声と足音。隼人とロマーリオのものだ。

「十代目っ、それはやば…あああ」
「遅かった…!」

声は聞こえるけれど、二人は私たちの関係を知っているから入ってくるなんて無粋なことはしなかった。
開いた扉から一歩部屋に踏み込んだ位置にいるツナだけが真っ赤な顔で「ええええ…」とかなんとか、叫んだり呟いたりしている。

「ツナったら、ボンゴレを継いだっていうのに、こんなことで真っ赤になって」
「いやビアンキ、ツナにはこれはさすがに刺激が強いんじゃ」
「ディーノったら、いつまでもこの子を子ども扱いしていてはダメ。もう十代目なのよ」
「でもほら、なあ?」

悪ぃなーツナ。とディーノが苦笑しながら、絡まっていた私の足をシーツの中に閉まったから、私はまあ、と口元に手をあてた。


あらやだ淫らだわ


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タイトルはにやりさんからいただきました。


(12.1.4)



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