目が覚めた。ボスがいなくなってから、スクアーロはぐっすり眠れない。もともと、王子がそばにいたって、気配があるからってちゃんと眠れないスクアーロは、反対に、ボスがいないから、もっと眠れなくなった。
金色の前髪の間からそっと窺うと、スクアーロはぼおっと、頬杖をついて小さなソファーに座ってた。王子が起きたのに気づかないなんてことはないはずなのに(あってはならないのに、だ)。思わず抱えていたマーモンと目を合わせてしまった(まあマーモンのやつも俺もお互いの目は見えてないからこの言い方っておかしいけどさ)。どうやらマーモンも起きていたらしい。
ボスがいなくなってから、王子はなるべくスクアーロといっしょに寝ようとしている。王子優しいから、マーモンも一緒に。俺らがいっしょだと、きっとスクアーロは寝れないけど、でも、だって俺らがいなくたって、スクは寝れないんだ。ボスのことを信じて待つって決めたスクアーロが、あの強いスクが、まさかどうにかなったりなんて微塵も思ったりはしないけど、王子はスクアーロを監視することにした。ちょっとでも、寝てくれないかなって。
だってもう、スクアーロの髪は肩まで伸びた。

「ベルフェゴール?」

はっと目が覚めた。訝しげな赤い目に、どうしてか、とっても安心した。

「ボス」
「寝るなら自分の部屋に行け」

上半身を起こすと、座ったまま寝ていたらしい体がバキバキいいやがった。王子が座ったまま寝るとか、ありえないし。
でもそんなことより、王子の目の前にはベッドがあって、そこには長い銀髪が、(長い、長い)

「…」

スク、と声に出さずに(呼んだら起きちゃうもんな、アホだから)つぶやくと、ボスの赤い目がまたこっちをちらっと見た。
そう、そうだ。立て続けにあった任務の適正者が、スクしかいなくて、帰ってきたらぶっ倒れたって聞いたからからかってやろーと、思って、

「寝てるの?」
「…ああ」

湿布と包帯にまみれて、真っ白い顔で静かに眠っていても、王子はその姿にひどく安心した。
スクの髪は確かに腰くらいまでの長さだし、王子の横にはちゃんとボスがいるし、なにより、スクが眠ってる。
生きている。

「王子、部屋にもどる」
「ああ」
「ボス」
「なんだ」
「起こしちゃだめだよ」

はあ?という呆れたような気配がしたけど、王子はニンマリ笑った。
眠ってるスクアーロは死にかけでも、あの時よりは生きている。


わたしが死体だった頃


******
タイトルの「わたし」と一人称がずれていますが。
タイトルはにやりさん(topからとべます)からいただきました。


(11.1.3)



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