ディーノに誘われて今流行りのアメリカ映画を観に行った。あの国特有のちょっと品のないコメディを含んだベッタベタに甘ったるい、ちょっぴりの辛いことの後にハッピーエンドが訪れるような、そんなお姫様のような女の子の話だった。ディーノと私はまるでその映画の主人公たちのように腕を組んで映画館を颯爽と出て行く。私がルブタンのヒールを履いたってディーノは私よりも背が高いし、甘いマスクはきっとあの俳優よりも女の子ウケする顔で、私たちはきっと振り返る街中のティーンズにとっての主人公たちなのだろう。

「うつくしいわ」

立ち止まって呟いた私にディーノが少し首を傾げた。私たちの前には指紋ひとつ見つからないであろうショーウィンドウに飾られたピンク色のドレスがある。サテンとオーガンジーが、ため息が出るくらい見事なラインをかたちどっていて、私は心からそれをうつくしいと思った。

「着てみるか?気に入ったのなら、贈るよ」

今日のお礼に、と微笑むディーノは確かに王子様だけれど、私はお姫様じゃない。

「いいえ、ディーノ。私には似合わないはずよ」
「そんなことは、」
「いいえ。私はピンク色が似合わないの」

ローズグレイの髪には、昔からピンク色が似合わなかった。そして私は、たとえピンクが似合わなくたってこの髪色が気に入っているのだ。だから、お姫様なんかにはならない。

「私はお姫様じゃないわ」

私に似合うのは黒い色で、物語のお姫様は黒いドレスを着ない。
ディーノは静かに瞬いて、ゆっくり微笑んだ。

「それでも、俺にとってはお前はずっと」

お姫様だったよ、と。ディーノは私を抱き寄せた。
彼の背中に手を回し、肩口に顔を埋めて、私は小さくありがとうとささやいた。
もうすぐピンクのドレスがよく似合うお姫様と結婚する彼に、私が最後にできるたったひとつのことだった。





(12.1.2)


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