!頭のおかしいヴァリアーがいます



しちがつふつか。ヴァリアーは、海にきていた。
いつもの黒いコートではないが、海辺にぽつんと立っている痩身は黒いVネックのサマーセーターと同じく黒いスキニーパンツを身にまとっている。おまけに潮風にあたると悪くなるとかで、義手の方の手は黒い手袋をはめているのだから、背を流れる銀髪だけが日を反射して白く光っていっそう不気味だった。更に隣にはいくぶんか高さも厚さもある体がこれまた黒いシャツに黒いジーンズを着ており、こちらは頭まで黒いのだから、暑苦しいことこのうえない。だいいち、黒は光を吸収するというのに、夏場に、それも南の海に足を運んでいるというのに、黒を着るとはどうにも理解しがたい。
挙げ句の果てに、この薄ら寒いセリフである。

「マーモンにも見せてやりたかった……!」
「ああ」

とは言うものの、マーモンは死んでいない。生きているし、ついでに言ってしまえば、この場に同伴していた。だいたい、ヴァリアーがのこのこ海に来ているのだって、今日がマーモンの誕生日だからだ。年をとらない赤子を、いつまで経っても赤子扱いするのが、最近の流行なのだろうか。
悲壮感ただよう黒ずくめの二人組を眺めながら、当のマーモンが口を開いた。いつもの黒いフードではないが、紫のフードをやはり目深にかぶっている。

「ママンの、」

気づいたようにごほんと咳払いをしたが、結局スクアーロと言い直すのはやめにしたらしい。

「ママンのあれはさ、ヒロイックさの演出だよ。ボスは……」

これは言い直して。

「パパンは、ユーモアが好きなんだ。彼だけじゃない。僕らはみんな。意外だと思うかい?」

マーモンはふっと赤ん坊らしからぬ皮肉気な笑みを口もとに浮かべた。

「僕らはもうマジョリティに属さないという意味で怪物なんだろうけど、もとはただのちっぽけな人間だったんだから、当たり前さ」
「そういうこと」

品のいい薄手のシャツを着たベルフェゴールが優雅にフローズンマンゴーをつまみながら同意した。

「さしずめ人間になりたい怪物ってところかしら?」
「バカ言うなよ、力を持たない人間なんてやだね」

アロハシャツとサングラスとモヒカンで極彩色に染まったルッスーリアが言うのに、ベルフェゴールが反論する。ザンザスを見つめていたレヴィがぼそりと「人間ごっこか」と言うと、他の三人は視線を交わして(とはいえ三人とも目は隠れているのだが)、「そうねえ」「間違ってないかもね」「たまには的確なこと言うじゃん」と同意を示した。
海辺の怪物二人は、未だ人間ごっこに浸っている。





(130903)
 


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