!色々捏造しています。



獄寺の端正な顔が一瞬のうちにゆがみ、男の割にふっくらしたくちびるがゆっくり開いたかと思えば、次の瞬間出てきた言葉は最近ようやく耳慣れてきたイタリア語、らしきものだった。らしい、というのは、ツナには彼の、早口で喚くように吐き出される言葉の意味が半分以上わからなかったからだ。そういえば彼の母国語はこちらだった、と今更ながらに実感している間にも、休むことなく獄寺の口は回り続けていた。イタリア語に多い促音や癖の強い巻き舌を聞いて、よく舌を噛まないなとツナはあまりにも場にそぐわないことを考えた。現実逃避であることくらい、自分で気づいている。なにせ、ところどころ聞き取れる単語だけでも、不穏な空気が伝わってくるのだ。その罵倒を浴びせられてもけろりとしていたのは彼の姉だが、弟が何事かまたツナにはわからない―――おそらくスラングだろう―――言葉をいった瞬間サッと顔を真っ赤にして悲鳴を上げた。こちらも当たり前のように彼女の母国語だ(ただし意味はわかった。なんですって!といったところだ)。ビアンキのくちびるが堰を切ったように何事かを叫び出した。それを見ながら、このどこもかしこも似ていないと思っていた姉弟は、くちびるとヒステリックさが似ているのだと気づく。後者については、確かに二人とも短気ではあるものの、こうして二人そろってそうなることが珍しい。そこまで考えてから、ツナはようやく周りが誰も二人を止めないことに気づいた。こういった事態が起こると真っ先にうるせえと一喝しそうな男がここにはいる。それが、ザンザスは、そして彼についてきたスクアーロとルッスーリアまでもが、それぞれなんともいえない表情で押し黙っている。リボーンを振り仰げば、ツナ同様わけがわからずもやや困ったように眉を下げた山本の肩の上で小さな肩を震わせて笑っている。リボーンが笑うなんてろくなことじゃない。ヴァリアーの三人へ視線を戻すと、じっと目を閉じて頭痛を堪えているような表情のザンザスがため息をついた。その後ろに控えているスクアーロとルッスーリアが小声で何かを話しているが、あいにくツナはドイツ語ができないから、意味はわからない。ただ、口論中の姉弟に聞かれたくないのだなとは理解できた。じっと見ていたからだろうか、案外面倒見のいいスクアーロがどうしたと言いたげにツナを見て目を細めた。

「あの二人、いったい何を喧嘩してるの?」
「……あ゛ー……」

そこからか、とスクアーロが頭を振って、ルッスーリアがううんと唸る。こちらは面白がっている響きも含んでいる。ザンザスがまたため息をついた。足や炎が出ないのだから、彼も落ち着いたらしい。
「なー、ボンゴレさんよぉ」(スクアーロはツナをたびたびこう呼ぶ。10代目はザンザスにあげたかったものだし、彼のボスはザンザスただひとりだということは、ツナのほうも承知している)「なんだい、スクアーロ」「あいつらって、結構いいとこの出だよなぁ」「そうだと聞いてるけど……、えっ何なんでそんな嘘だろみたいな顔すんの三人とも!」あくまで小さな叫びにやはりヴァリアー組はおのおのなんともいえない顔で押し黙ったが、ザンザスがついにぼそりと呟いた。

「聞くに堪えねえ」

ボスはお耳も高貴なのよねぇ気難しいところもすきよっなどとルッスーリアが体をくねらせ、スクアーロがげんなりした表情でそれを止める。その表情の原因がルッスーリアにだけでないことは、もうツナにもわかった。ものすごく嫌そうではあるが、スクアーロが「お前らぁ」といまだに口喧嘩を続けているビアンキと獄寺を呼んだ。やはりというかなんというか、彼の母国語である。ああ゛んとばかりに振り返った姉弟に一言、またツナの知らない言葉を投げかけた。「関係ねーだろ(ないでしょ)、このxxxxx!」ザンザスが三度目のため息をつき、ルッスーリアが青筋を浮かべるスクアーロを「貴方だってあの言い方はないわよ」となだめ、リボーンがますます笑いすぎてぶるぶる震え、山本が相変わらずよくわかっていない中、ボンゴレ十代目は遠い目をしてソファーに座り直した。大マフィアのボスになっても、できないことは多い。


たとえば姉弟喧嘩の仲裁とか


(130621)


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