弟は本当におろかだとビアンキはしばしば思うときがある。
それは彼が敬愛してやまないボスがまだダメダメな素人のコドモだったころ、よく浮かんだ思考であったけれど、最近は特にそう思うことは滅多になかった。それは日向を歩いていたコドモが暗い世界を知るようになり、その道を誰かに押しつけられるのではなく自分で進むと決めてボスになったあの時から少なくなっていったように思う。それが、今更思い出すようにそう感じるとは。ボスは確かに大人になって、影を知り、それでもすべてを包容するようにはなったけれど、弟はいまだにひどくコドモじみた思考を持ち出すことがある。ベッドに優雅に横たわって目を閉じているビアンキの隣でうつぶせになって煙を吐き出す彼女の弟は、やはりおろかだとビアンキは微笑んだ。

姉は本当におろかだと獄寺はしばしば思うときがある。
昔から彼女にとっては無自覚に痛めつけられてきた覚えのある獄寺には、姉との思い出にあまりいいものがない。しかもお互い早くに家を出たので日本で再会するまでは姉弟としては短い期間のものだ。その中でも美貌の彼女が数多の男に言いよられ、付き合い、気の強い性格から喧嘩をして、別れるという一連のパターンを何度見ただろうか。別れた後はフッたにしろフラレたにしろ獄寺のもとに情熱的に泣きながら駆け込んできて、彼女の気が済むまで大声で元カレの悪口を言うオプションまでついてくるのだから、いただけない。それは再会後にも存分に発揮されて、止まるところを知らないのだろう。普段ならば体に悪いのよと自分の料理を棚にあげて口を酸っぱくして言ってくる彼の姉は、今煙草をくゆらせている獄寺の隣で彼と同じようにベッドに横になって眠ってもいないのに目を閉じていて、やはりおろかだと獄寺は紫煙を吐き出した。

この姉弟は本当に似ているとディーノはいつも思う。
片や生粋のイタリア人、片や日本の血が四分の一だけ混ざったクォーターで、母親が違えば髪の色も名前の響きも違う姉弟だが、ディーノからすると本質的なところはそっくりだ。今だって、成人した二人が並んでもまだ余るほど大きなベッドなのに、姉弟は肩と肩をくっつけて寝そべっている。眉目麗しい一族なのか、仰向けで背を特注したというドイツ製の枕に預けているビアンキは目を閉じていてもその広い額や気の強そうな眉、すっきりした鼻筋が、うつぶせで肘をゆるく立てて外側の手に煙を伸ばしている細い煙草を挟んだ獄寺は顔が見えなくてもその姿勢により浮き出た肩甲骨や、無造作に投げ出された細身のジーンズに包まれた長い足が、それぞれどれをとっても美しい人間のパーツだとわかる。

「泣くなよ」

姉が目を開き、弟が振り返った。
よく似たおろかな姉弟は、その緑の目から涙をはらはらとこぼしながら、イタリア語で同じスラングを使って同時にこれ以上ないほどの悪態を吐いたから、ディーノはまたこの二人は似ていると思うのだ。


セラドングリーンの姉弟


(12.11.15)


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