ミホークがシャワーを浴びに行ってしまって退屈だったから、何気なく見回すと、黒い帽子が目についた。
ミホークがいつもかぶっている帽子。手にとってみると、普段見ているときよりも大きく思えた。
フワフワした羽根飾りをいじっていると、ふと思いつく。というか、せっかく帽子にさわれたのだから、やることといえばひとつしかない。
「……何をしてる」
背後から聞こえた彼の声からは、めずらしく呆れているのがはっきり分かった。
振り返ってみるが、残念ながら視界は真っ暗。
「ミホーク、頭大きいのね」
「今更何を言う」
「帽子に私の頭がすっぽり入っちゃうなんて知らなかったもの」
目深を通り越して、完全に視界を遮ってしまっていた黒い帽子を上げてみるが、つばも広いし、ミホークの背は高いしで、なかなか彼の顔が見えない。
「お前の頭が小さいのだろう」
「…中身に比例してってこと?」
「敢えてそうは言わんがな」
「…もう言ったも同然じゃないの!」
「言ったのはお前だ」
ミホークのばか、と呟くと、おそらく―――まだ彼の顔は見えない―――くっくと笑ったのだろう。余裕しゃくしゃくな態度はいつもだけれど、何だかむかつく。
「いいわよ、これ返してあげないから」
「代わりならある」
「……あっそう」
ならいいわよね、もらっちゃったって。
むかつきついでにさっさと踵を返して歩き出してみるが、帽子は脱ぎたくないので視界が危うい。足元にだけは気をつけてやろうと、帽子の下から覗いていると、努力虚しく正面の何かにぶつかる。
「やはり中身も小さいか」
「…いつの間に前に来てるのよ」
「おれを見ないお前が悪い」
「あのね、そういう傲岸不遜なところが、」
文句のひとつも言ってやろうとした瞬間、あっという間に帽子が剥ぎ取られて明るくなった視界に映ったミホークの顔が零距離に迫り、後は言葉にする暇がなかった。
「好きなのだろう」
「………!!」
私から奪い返した帽子をいつものようにかぶって、ミホークがいけしゃあしゃあと言い放つ。
ああこの帽子、きっと私には似合わなかっただろうなと、唇に残る熱さを持て余しながらぼんやり考えた。
<おまけの付録>
「そんなに帽子が被りたいなら、お前の大きさに適したものを買ってやる」
「…お揃いとか」
「…不釣り合いだな」
「ちょっとその帽子もう一回貸しなさいよ、羽根むしってあげるから」
「少し、黙れ」
お前の視界におれが入らないのは、だめだと言ってるんだろうが。
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