「…イザーク!」
「すまん。驚かすつもりはなかったんだが…その、声もかけづらくてな」
手に持ったままだったプレゼントを、エヴァンはあわてて後ろに隠した。
イザークが悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「オレには内緒か?」
「ええ。言ってしまったらつまらないわ」
イザークがエヴァンに歩み寄って、またぎゅっと抱きしめられる。その腕の加減が、普段よりも少しだけ強くて、まるで存在をたしかめているかのようにも思えた。
「イザーク? どうかしたの…?」
「いや…エヴァン、昨日まで地球にいただろう」
「!? なんで知って…!?」
腕の中で顔をあげて問う。イザークがなだめるようにエヴァンの髪をそっと撫でた。
「地球で、ザフトの隊員がブルーコスモス検挙に協力したとオレの隊に連絡があった。現場の写真と一緒にな」
「…そうだったの」
「いい連絡だったから良かったが…何かあったらと思うと、心配だった」
イザークの腕にまた少し力が込められて、二人の体温が溶け合うように密着する。
イザークの隊は、たしか地球に近い宙域の警備だったか。 誕生日だというのに、心配をかけてしまったことがとんでもなく申し訳なかった。
「心配かけて、ごめんなさい」
「いや…だが、正直嬉しかったな」
「…え?」
「オレのため、だろう? あの国であれを買うなんていうのは」
「? どういう…」
イザークがエヴァンを離し、胸元から写真を一枚取り出して見せる。そこには、カオルとエヴァンが、仕留めたひったくりを検挙している警察官と一緒に映っていた。
そして、エヴァンの手には、あのとき買ったばかりだったプレゼントが、ぼんやりとだが映っていたのだ。
「……なんてことなの!!」
「そう言うな。オレは嬉しかったぞ? 心配もしたがな」
「でも…せっかく秘密のプレゼントにしたかったのに!!」
ばれているのでは仕方がない。エヴァンは後ろから包んだばかりのプレゼントを取り出して、イザークに渡した。
端正な細い指が、黒いリボンをほどいて、青と白の薄紙をどけて、中身をそっと取り上げる。
「ナザールボンヂュウ、トルコのお守りだな」
「…ええ。前にイザークから聞いて、思い出したの」
青いガラスに、目玉が白で描かれた風変わりなお守り。海の青と女神の瞳を模しているというそれは、持つ者に向けられる邪視を防いでくれる―――お守りに興味があるのだと言って、イザークが以前話してくれた。
ネックレスにして首から下げておけるし、あまり大きくなく、薄いものを選んだから、軍服を着ていても大丈夫だ。
あらゆる邪な視線から、どうかイザークを守ってくれますようにと。
「…ありがとう、エヴァン」
そのときの、イザークの嬉しさがにじみ出た表情が忘れられないほど魅力的だった。
そのまま、イザークがそっと顔を近づけてきて、エヴァンが目を閉じようとしたとき―――
「ちょっ、押すなって!!」
「やめてくださいよ、倒れますから…!!」
「ていうか無駄なあがきだよ、もうばれてるだろ?」
聞えてきた外野のひそひそ声に、イザークがぴきりと固まる。エヴァンは苦笑してイザークから離れた。
「…貴様らぁぁぁ!!」
「げっイザークが怒った!! てかバレた!!」
「逃げます」
「オレもだね」
「逃げるなぁ!!!」
どたばたと賑々しくなった廊下を、エヴァンも彼らについて歩いて行った。
結局、その後は皆で仲良く蝋燭をともして、美味しく誕生日のケーキをいただいたけれど。
イザークの首元から下がった青い目が、穏やかな祝日を見守っていた。
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