暑い日だった。
天候管理がされているプラントでは珍しいくらいだ。
そんな中、エヴァンはカオルと連れだって、アプリリウスの市街地に買い物に来ていた。
「ねー、エヴァン、まだ決心つかないの?」
「……だって、いざ選ぶとなるとどれもダメな気がして」
通算、6軒目の冷やかしになった店を出て、カオルはこっそりとため息をつく。
別に暑いのがいやなわけでも、エヴァンと買い物をするのがいやなわけでもない。
なにがため息の元かといえば、無意識の惚気とでも言おうか。
「万年筆とかは?」
「もう持ってるわ」
「香水とか」
「それも持ってるし、気に入ってるみたいだからダメ。ものにはこだわる人だし、センスもいいし」
だあぁぁ、と地団太踏んで頭をかきむしりたい―――とはこういう状態だろうか。カオルはぼんやり考える。
愛する恋人のためとはいえ、何を前にしてもこうだ。
今度の休みは8月8日。つまりイザークの誕生日だ。
エヴァンはカオルを伴って―――男性の好みはわからないという理由から―――朝からあちこちの店をまわっては、迷いに迷っているのである。
そしてそれに付き合わされている哀れな自分というわけだ。
「手料理作るだけでも躍り上がって喜びそうなもんだけどねー」
「だ、ダメよ。それじゃぜんぜん特別じゃないでしょう」
「そうかなぁ? ものは誰でも買えばあげられるけど、手料理は君しかできないんじゃないの?」
「うーん……」
まぁたしかに、何を見ても彼に相応しいと思えないのなら、ものを贈っても意味が薄いかもしれないけれど。
「普段より手の混んだ料理作ってさ、ケーキでも焼けば? 形に残らない分、心に響いちゃったりして」
「……あんた、相変わらず人を煽るのが巧いわね」
はあ、と盛大に息を吐き、エヴァンは洒落た店が並ぶ方面に背を向ける。
「じゃあ材料を買うから手伝ってよ?」
「喜んで? 報酬は味見でいいよ」
「ばかね……あ、そうだ」
唐突に何か思い立ったエヴァンに、カオルも立ち止まる。
「どうしたのさ?」
「ねぇ、今から地球行きのシャトルを予約できる?」
「…軍用ならできるだろうけど、どこ行くの?」
「トルコ」
「はあ?」
***
突発的思いつきから即行動……というわけで、エヴァンとカオルはあれからすぐに軍用機をチャーターして地球へ飛んだ。
完全に特殊部隊の職権濫用だが、口を出す輩もいないので結果オーライだ。
目当てのものは、トルコの街中ですぐに見つかった。
「…なんか不思議な感じだけど、いいの? こんなんで」
「ええ。もちろん、料理も作るけど」
エヴァンが満足しているならば、カオルが口を挟むこともない。
さっさとプラントに帰ろうというところで、にわかに街の通りが騒がしくなった。
「…誰か!! そいつを捕まえて!!」
「……泥棒?」
「らしいね」
傍観していても良かったのだが、逃げる男がこっちに向かってくるのでは仕方がない。
男が近づいた瞬間、カオルが巧みに足元を払って転倒させる。膝の後ろをすかさず踏まれて、起き上がれなくなった男が呻いた。
男が倒れたときに落ちた女物のバッグを、エヴァンが拾いあげる。
通りの向こうから、ようやく呼ばれたらしい警察官の姿が見えた。
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