エヴァンとカオルの反応は恐ろしく迅速だった。
イザークが叫ぶ前に、エヴァンもカオルも警戒はしていた。ボルテールの背後にある扉から、複数の作業員が出入りしているのは、通路からもよく見えていたからだ。式典が行われている中、出入りする作業員などいるわけがない。
手際が悪すぎるあたり、そう手ごわい相手でもなかろう。
張り出した通路を走りながら、エヴァンは銃を取り出した作業員を撃つ。反対側ではカオルも同様に何人かを撃っていた。せっかくの進宙式だというのに、隊から死傷者を出すわけにはいかない。
通路から飛び降りた二人は、瞬く間にテロリストたちを蹂躙した。
***
一方、イザークは、上官たちをボルテールの影に避難させ、加勢すべく銃を構える部下を抑えていた。
「しかし隊長…」
「介入したところで巻き込むだけだ」
幸い、テロリストは少数のようだ。敢えて戦場を広げないよう、エヴァンたちが速攻を仕掛けたのだろうとイザークは理解していた。栄えある進宙式に、自分の隊から死傷者を出すわけにはいかないことも。
だが頭で理解できても、悔しさで腑が捻れるような思いだった。エヴァンが戦っていても、自分は何もできない―――何もすることが許されていないなど。
もしエヴァンが撃たれでもしたら、なけなしの自制心は完全に消し飛んでしまうだろう。
しかしイザークの心配をよそに、エヴァンたちの戦い方は見事だった。
<アンノーン>は、白兵戦に長けていると聞いたが、想像以上の戦闘力。銃声は集団を相手にしているというのに極端に少なく、相手を直接叩き伏せているだろう鈍い打撃音が聞こえる。
まさか素手で制圧されようとは思ってもいなかったのだろう。懐に飛び込んでしまえば、相手の動きはお粗末なものだった。
エヴァンはもう銃を使わないようだったので、カオルもそれに倣って、四肢を折るなり殴って気絶させるなりしていた。
足元にはすでにほとんどの敵が倒れてうめいている。
「……くそっ!」
「あれ、逃げるの?」
走り出した男を、カオルは躊躇わず撃った。
「撃たなくてもやれたでしょうに」
「面倒だよ。それに殺しちゃいないし」
足を撃っただけなので、残念ながら死にはしない。それに、彼らにはじっくり話を聞かなければならないのだ。死んでもらっては困る。
「さて…ジュール隊長! 終わりましたよ」
「!……さっさと捕縛しろ!!」
イザークが檄を飛ばし、隊員たちが慌てて動き出した。
エヴァンとカオルは捕縛を任せてイザークの元へ歩み寄る。イザークは、エヴァンが持ったままだった箱を気にしているのに気づいた。…期待の気持ちが湧き上がるのは場違いだろうか。
兎に角、怪我でもされていたらと思うと気が気でない。イザークが声をかけようとしたとき、
「いやぁ、見事な采配だったな、ジュール隊長!」
「………はっ?」
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