めいんでぃっしゅ | ナノ

::赤葦と木兎

9月20日。木兎さんの誕生日。
去年は一週間前に先輩から知らされた。
ウサギモチーフのプレゼントを用意しておくよう言われて迎えた当日。木兎さんは見事にウサギグッズに囲まれ弄られていた。
挙げ句の果てに全身白タイツにウサ耳、尻尾を複数つけられたりしていた。

今年は最後だからと普通に木兎さんが喜びそうなものを持ってくるようお達しが出ていた。

朝練前の時間、体育館に皆が集まりだしたタイミングで木葉さん達が木兎さんを囲んでクラッカーを鳴らした。
「うおっ!?」
驚く木兎さんにそれぞれが畳み掛けるようにプレゼントを渡している。
お祭りで当たったヨーヨー、めっちゃくちゃ跳ねるスーパーボール、スライム、と小学生でも誕生日に貰わないだろう物ばかり出てくる。
完全にネタであるが、確かに木兎さんは喜んでいた。
「次、赤葦な」
一歩後ろで見ていたら輪が一斉にこちらを向く。出しづらい雰囲気の中、ジャージのポケットから少しはみ出しているそれに手を掛ける。ちょっとしたサプライズだ。
「木兎さん」
木兎さんに対し斜めに立って刀を抜く前の武士のような構えをする。それに気付いた木兎さんが少し怯んだのを見て木葉さんや猿杭さんたちが木兎さんの腕を拘束し出した。俺の選んだプレゼントを知った先輩達が考えたことだ。
「え、何?」
朝日が刀の柄と鍔の模様に反射した。
「ちょ、ちょっと待て赤葦!話せば分かる!分かり合えるから!いったんそれ置いて!」
今時本物の日本刀を持ち出してくる高校生など皆無に等しいが純粋な木兎さんは信じているようだ。
ジリジリと距離を詰めて行けば拘束されている木兎さんは身体を反らして避けようとしていた。
そこに勢い良く刀を振り下ろせば木兎さんはぎゅっと目を瞑って衝撃に備えていた。当たり前だが空振りである。
「……?」
薄目を開ける木兎さんにそれを差し出す。持ち手の部分が刀の柄になっている折り畳み傘。
「木兎さんこういうの好きでしょう?」
「え、あ…おう?……な、んだよも〜!そういうことかよ!びっくりさせやがって!」
木兎さんはさしたままの傘をぶんどるように受け取って反動で一回転していた。
「9月は意外と雨が多いらしいので」
まあもうすぐ10月ですけど、と付け足すが木兎さんがそれを聞いているかは定かではない。
「ていうかすげえなこれ!街中で装備してたら職質とかされんじゃねえの?」
傘を閉じながら言う。
「そしたら戦えばいいんじゃない?それで」
「おお!」
木葉さんの冗談を木兎さんは本気で捉えているかのような興奮した面持ちだった。
「公務執行妨害で捕まりますよ…」
「赤葦、覚悟!」
本気で叩くつもりはないだろうが反射的に腕で防ぐようにしたらタイミングが悪かったのか当たってしまった。
「はいこれ」
そんなに痛かったわけではないが軽くさすっていれば木葉さんがどこからか手錠を持ってきた。
「…なんでこんなのあるんですか」
流されるままに木兎さんの腕を掴んで手錠をかける。なんでちょっと嬉しそうなんだろうか。
「…公務執行妨害で逮捕します」
「そんなやる気のない警察がいるか!やり直し!」
面倒だな、と目を逸らしてからとりあえず掛けた手錠を外して、そういえばと体育館を見回す。
「……いいんですか?」
「あ?」
「バレーにやる気出さなくて」
時計に身体を向けて部活開始時刻を数分過ぎている旨を伝えれば、木兎さんは傘を体育館の隅に転がし中央へと駆けていった。
「早く言えよ!」
同じようにはしゃいでいた面子も小走りに集まっていく。
「集合!」
「もうみんな集まってますよ」
「うるせ!」

ちょっと特別な一日の幕開けはいつもと変わらず賑やかに訪れていた。




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