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余計なお世話だ
びゅうびゅうと強い風が窓の外で吹き荒れて、家がミシミシと嫌な音を立てている。どうやら近隣の地域に暴風雨がやって来ているらしく、雨はないもののここの地域も風の被害を受けているようだった。今日は学校が休みで良かった、と窓際から外を眺めて思う。今は昼時、空の色は灰に染められ始め、夕刻になればこちらにも雨雲がやって来ることは目に見えていた。散歩をしていたらしい若い女性が急いで帰路を走っているのが視界の端に映る。二階からだと道がよく見えるんだ。その人が見えなくなるまで目で追っていると、彼女が走っていく方向から見覚えのある姿が歩いてきているのに気づく。あれって、凌牙?

紫色の衣服に身を包んだ、特徴のある髪型、間違いない凌牙だ。凌牙は私の友達で、休日にはよく遊んだり妹さんのお見舞いにも行かせてもらっている。どちらかというと悪友のような関係だ。まあ、それは置いといて。
こんな強風の吹いている日に一体何をしているんだろう、妹さんのお見舞い…ではない、方向が逆だ。まさかこれから雨が降ってくるという時に何をしているんだろう。そんなことを考えていると、凌牙は私の家の庭へと入ってきたのだ。


「へっ…?あ、ちょ」


驚く間もなく玄関のベルが鳴る、十中八九凌牙だろう。何しにきたのか、と考える前に早く玄関に向かわねばと身体が動く。早く出迎えなければ遅いと言われるし、何より私の家族が余計なことを言い始めないか不安だ。特にお母さんは凌牙が私の恋人なのでは、とあらぬことを勘繰っている。変な世話を焼かせる前に!


「凌牙くん、今晩の夕食食べていかない?なまえも喜ぶわきっと」
「あー…じゃあ頂きます」
「ふふ、なら腕によりをかけなくちゃね」


遅かったか!途中まで階段を降りて聞こえてきた会話にため息を漏らす。それが聞こえたのか、お母さんと凌牙が私に気づきこちらを向いた。途端にニヤニヤと気味の悪い笑顔を浮かべた我が母を睨んで、凌牙を手招きする。お母さんにペコリと一礼して凌牙は私のいる場所まで向かってきた。これだけ見ると、ちょっと派手な中学生なのに世間では中々の不良なんだよなあと思い出す。下級生の九十九くんとやらのおかげで結構丸くはなっているのは良い傾向なんだろうけど。階段を上がり、私室へと招く。一瞬凌牙の表情が強ばったのは気のせいだろうか。


「…お前」
「ん?」
「…何でもない」


何か機嫌が悪くなっている気がする、何かしただろうか。最近凌牙はよくわからないことで機嫌を損ねるから、こちらも対応に困ることがある。その度に原因を聞いても何も教えてくれないのだ。自分で気づけってことなんだろうけど、全くわからない。教えてくれたっていいのに、じゃなきゃどうすることもできない。とりあえず座らせようと、部屋の中心にあるテーブルの傍に連れてくる。まずは私が座り、その隣をポンポンと叩いた。


「座って座ってー」
「……案外、可愛らしい部屋してるんだな」
「あれ、初めて来たんだっけ」
「ああ」


凌牙はソワソワと落ち着かない様子で部屋を見渡しながら私の隣に座った。動きもぎこちない、どうしたんだろう。にしても部屋に招いたのは初めてか、いつも凌牙の家か外で遊んでいるからね。私の家に来てもリビングまでだし。


「あ、そういえば何しにきたの?」
「いや、特に用があったわけじゃねぇ……ただ」


言いにくいのか、口をモゴモゴとさせ中々言おうとしない。それどころか珍しく顔を赤くして、照れているようだ。あ、可愛い、なんて思ってしまった。言ったら怒られるから絶対に言わないけど、可愛いなあ。

しばらくして決心がついたのか、唇をきゅっと引き締めた凌牙は私の両手を取って握る。未だ赤い彼の顔、でも瞳からは強い意志が見え隠れしていて、見つめられているこっちが恥ずかしい。な、なんだろう。


「オレは、お前に会いに来たんだ」
「学校で会えるじゃない」
「そうじゃない。そうじゃなくて、その。…オレはお前が好きだから、学校じゃなくても会いたい」


え、と声を上げる前に目の前にいっぱいの凌牙の顔、唇を塞がれたと間をおいて気づく。触れるだけのフレンチキス、あれ、え、え。キスされたのだと理解した瞬間、顔が熱くなって、身体中に熱が駆け巡って、あ、唇が温かい。凌牙はいつまで、キス、してるの、それよりも私達、付き合ってない…よ。ふ、とやっと唇が離れる。


「え、あ」
「ったくなまえ、お前、オレのこと男としてみてないだろ。簡単に部屋にあげやがって」
「…あ、その」
「くそ、こんなつもりで来たわけじゃ」


握っていた私の両手を放し、今度は正面からぎゅっと抱き締められる。そんなこと異性にされたことがない私は余計に頭が混乱した。それに気づいたらしく、凌牙の口元が歪む。アンタだって、顔赤いくせに。


「お前、ホント可愛いな」
「っ…バカじゃ、ないの」
「今日は夕飯までいる、お前を絶対その気にさせてやるよ」


「凌牙くーん、今日は夕方から雨だから泊まっていきなさーい。部屋はなまえのでいいわよねー?」


扉のすぐ向こうから母の声が聞こえる、はっ、部屋入ってこなくてよかった。こんなとこ見られたら……って、え、違う、それより。私の部屋……?


「はい、ありがとうございます」
「え、ちょ」
「良かったな、延長戦だ」
「くっ、お母さんのばか…」



0524
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相変わらず名前変換の少ないこと!
気が向いたら続き書く
凌牙好き
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テーマ「人外ファンタジー」
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