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バカなんじゃないの
首回りを黒い触手がスルスルと這いずり回る。我が家のソファーに座り本を読んでいる私はそれを意にも介さず文字を目で追いページを捲る作業を繰り返していた。この小説は中々に面白い、普段本など読まない私だが目に留まったこの本をなんとなく買ってみたところ、珍しく読書に没頭している。内容はまあ、ありきたりな推理小説なわけだが、


「おい、この俺を無視するとは良い度胸だな」


首回りを這いずっていた触手が私の手から本を素早く奪い破った。良いところだというのに、なんてことしてくれるんだ。また買いにいかなくちゃいけないじゃない、続きが気になる。キッと触手を操っている奴を睨み付ける。全くこいつはいつも私の邪魔をしてばかりだ、他にすることはないのか、と思ったけれどこいつは人間じゃないからできることは限られていたなと思い出す。だからと言って、私の邪魔をするのもどうなのだ。


「おい、聞いて」
「聞いてる、邪魔しないで」
「はっ…もう読む本もないんだ、邪魔も何もないだろう」


なんだこいつ、相変わらずうざったいな。こいつはブラック・ミストと言って、ナンバーズとやらのカードらしい。私はデュエルはたしなみ程度だからそこまで詳しい訳じゃないがそんなカードあっただろうか。もしかして何かの限定カードか、などと考えたがどうせ私には関係ないことだ。さっさとどこかへ行ってしまえばいいのに、何故かこいつは私から離れようとしない。カードを捨てようとしても邪魔をされて結局捨てられずに終わっていた。


「いい加減どっか行ってよ」
「冷てぇなあ?冷酷女って言われないか」
「どうとでも」


面白くなさそうに舌打ちしたそいつは触手を引っ込めて私のすぐ近くへと身を寄せてくる。邪魔だと思ったが言えばまたうるさいことを言うに違いない、仕方ないので口は閉じたまま。肩と肩が触れあいそうな位置まで来ると、ぐいっと顔を近付けてくる。近い近い。その気持ち悪い笑みがうざったいのでこっちみんな。


「好きだぜ、お前のこと」
「私は嫌いかな、うざいし」
「傷つくねぇ…」


嘘つき、と言えば余計に笑みを深くする。嘘じゃない、と彼は言うがそれこそ嘘だ。全く、本当にカードを破り捨ててやろうか、なんて。


0510
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