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だって言いましたし
「ねえなまえさん」


笑顔で私を見る真月くんはいつもと至って変わらないようで、全く目が笑っていなかった。夕方の教室に二人きり、しかも校舎の隅っこで普段は使わない、人の訪れない教室だ。そんな部屋で私は真月くんに迫られていた。

真月くんが一歩近づけば私が一歩下がる、近づけば下がる、これの繰り返しをしていれば当然窓際の方にいた私はすぐに窓にぶつかる。身体にきた衝撃で背中の方を見てしまった一瞬の隙で、真月くんは私の目の前までやってきていた。驚きに目を見開く私をよそに相変わらず笑顔の真月くんはぐいっと顔を近づかせてきた。鼻と鼻がくっつきそうな位置、真月くんの吐息をすぐ近くに感じる。カチリと目と目があった。怖い。


「真月、くん」
「なまえさん…僕はですね、怒ってるんですよ」


え?と聞き返そうと開いた唇を即座に真月くんの唇が塞ぐ。咄嗟の事に反応が遅れたがすぐに離れようと押し返す。しかし男女の力の差もあり真月くんはびくともしない、その上両肩を掴まれ身動きもままならない。ダメだ、息が、続かない。


「ふっ…ん、やぁ…」
「ん、はっ…んん」


一瞬唇が離れ、酸素を吸おうとしたがすぐにまた塞がれる。それだけではなく、今度はぬるりとした舌が口内に入ってきた。好き勝手に暴れる真月くんの舌は逃げ回る私の舌を追いかけ回す。数秒もしないうちに捕まって、ねっとりと舌と舌が絡み合った。嫌、気持ち悪い。酸素が吸えないのも相まって目尻に涙が溜まり始める。しかしとうとう真月くんも息が切れ始めたらしい、フッと唇が離れた。銀色の糸が唇と唇を繋ぐ。私の口の端についた唾液を真月くんがぺろりと舐めた。


「はっ…うう、何なのぉ…」
「僕はあれほど言ったでしょう?」
「な、何を」


まだ正常に息ができない私に対して真月くんは既に通常の呼吸を取り戻していた。これが男の子の余裕なのかな、なんて考えていたが私の両肩を掴んでいた真月くんの腕に尋常じゃない力が入り思考が中断される。痛い、痛いっ!これ、普通の人の力じゃない!怖い…!


「や、だっ!痛い放して!」


私の言葉なんてまるで聞いていないらしい。力は増すばかりで放してくれる様子もなかった。私を見つめる真月くんは表情を消し去って、心なしかいつもより目が細まっている。雰囲気も大分違う、まるで別人のようだった。いや、むしろ別人であってほしいのだ。だって真月くんは友達であってこういうことする間柄じゃない、友達の関係を崩したくない。けれど目の前にいる真月くんっぽい人は私のその考えを否定するように言った。


「言いましたよね僕、誰だろうと僕以外の男と二人きりになるのは許さないって。忘れたなんて言わせません。なのに、さっきの誰なんですか。僕の知らない男ですよね、頬を染めてなまえさんのこと見てました。状況から察するに告白されたんですよね、この部屋に呼び出されて。こんな放課後に誰も来なさそうな所にノコノコやって来て何を考えてるんですか。よかれと思って僕が様子を見に来て良かったですね、襲われてたかもしれませんよ。なまえさん無防備だから。そういえば告白は断ったんですね、まあ当然ですけど」


なんたってなまえさんには僕がいるんですから!と消し去っていた表情に再び笑顔を浮かべた真月くんはまた私にキスをした。



20130502
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