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輝かしい君に

ふわりと香る育ちの良さを感じさせる甘い匂い、指を絡めてもサラサラとこぼれるほど手入れの行き届いた髪、どこまでも輝く太陽のような瞳。
裕福で大人しいお嬢様をそのまま体現したかのようなソイツは、世間知らずで見るもの全てにその目を輝かせていた。いや、大人しいってのはちょっと違うか。
ちょっと目を離せばすぐにフラフラとどっか行っちまうし、おっちょこちょいだし……なんていうか放っておけない。まるで好奇心の塊みたいなソイツは本当に何も知らない、ただの人畜無害なお嬢様だった。


「ってオイ!どこ行くんだよ」
「?ちょっとお散歩に」
「お前1人じゃダメだって、リンもオレも、何回も言ってんだろ」
「でも…」
「でも、じゃねぇ。オレも行く。1人で行かせたら後で何言われるかわかったもんじゃねぇからな」


ああ、もう。言ってる傍からこうだ。人の話もよく聞くし、疑うことを知らないんじゃないかってくらい素直なのに、なんでかたまに頑固なところがある。その1つがこれだ。
オレたちコモンズの暮らすスラム街は、良い奴が多いが治安が良いというわけじゃない。コイツを見つけたときもそうだ。裕福ですと主張するような服を着ていたコイツは、明らかに柄の悪そうな奴らに囲まれて泣いていた。
トップス(実際には違ったが)を助けるなんてことしたくないが、それでも多勢に無勢なんて腹の立つもん見ちゃ放っとけねぇ。囲んでいた奴らをデュエルで蹴散らしてやれば、コイツは零れた涙を必死に拭って、オレにありがとうと笑いかけた。思えば、泣き顔見たのはその時だけか…。
いや、まあ、それは置いといてだ。そんなことがあったにも関わらず1人で家を出るなんて、ホント何を考えてんだか。リンに目を離すなって言われたのもあるが、何よりオレ自身がコイツを放っておけない。また泣き顔見るのも、コイツが傷つくのも嫌だった。


「心配してくださってるんですか?」
「は、はあ?!」


心配していないわけじゃない。むしろ心配で仕方ないんだ。だけどそれを認めてしまうのはなんだか、無性に腹が立つ。だからこそリンを口実に、いや、それよりもだ。オレが心配しているのがわかってんだったら、どうして1人で外に出ようとなんかするんだよ。たった一言、オレに外へ行きたいと言うだけだっていうのに。


「心配、してないわけねぇだろ。わかってんなら、オレに声かけてけよ」
「…でも、あまり迷惑をおかけしたくなくて。見ず知らずの私を助けてくれただけでも、本当に感謝しているのに…」
「……そんなこと気にすんなよ。オレとリンが好きにやってることだし、それに…」
「それに?」
「……いや、なんでもねぇ」


むしろ、こんなところで暮らさせて悪い。そう思った言葉は口には出てこなかった。きっとコイツは、そんなことないって本気で否定するし、それを言ったオレに対して怒るだろうから。コイツがここに来て早数日、普段は人見知りな孤児院の子どもたちもやけに懐いてるし、浮かべている笑顔は紛れも無く本物。どんなことにも楽しそうにしているコイツが、ここの暮らしを嫌っているとは到底思えなかった。いや、思いたくなかったのかもしれない。だが事実、コイツはそんなこと考えすらしないはずだ。たった少しの間一緒にいただけでそう確信できるほど、コイツは結構単純なやつだ。


「はあ…」
「ユーゴ様?」
「……、行くか」
「?」
「散歩。行くんだろ?適当なとこ連れてってやるって」


パアッと表情を明るくさせ、嬉しそうに笑む。できることなら、この先もずっと、その表情を浮かべていてほしいと思った。
ヘルメットを被せ、Dホイールから落ちないようしっかりとオレにしがみつかせる。


「飛ばすぜ、なまえ!」
「はい!ユーゴ様!」



(ゆご夢主)
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