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ストラングル・スパイラル
※全体的に意味不明。意味怖系?絞殺の話があるので注意



物心がつく前から、私は自分の首に何かが纏わりついているような気がしてならなかった。
もちろん、実際にはそんなことはない。両親は、きっと気のせいだとずっと言っていたけど、私には気のせいで済ませられるほど簡単なものではなかった。
それに加えて私はとにかく、首が絞まる感覚を嫌った。
チョーカーとか襟の詰まった服とかは絶対に着れないし、手が首に触れたりすることも、タオルを首にかける行為さえも、私にはできなかった。
両親はともかく、親戚や近所の人は、そんな私に奇異の目を向けていた。
そんな子供、他にはいなかったからだろう。
首元が絞まることを苦手とする子はたまにいるけれど、私のように強い嫌悪感を抱くのは中々いないようだ。

カウンセラーの先生の元へ何回か通ったけれど、私の精神状態は正常だし、原因なんて覚えがないから、どうしようもなかった。
ストレスなのでは、病気ではないのか、そう言われ小児科にも行ったけれど、何もわからず。
けど、ある女の先生が、両親がいない時にぽつりと一言、私に冗談交じりに告げた言葉がある。


「前世で窒息死したり、首を絞められて死んだ人ってね。生まれ変わった時、貴方みたいに首が絞まる感覚を極端に嫌う人がいるのよ。首に纏わりつく感覚っていうのは、ちょっとわからないけど」


そんな話よく子供にしたな、なんて思う。
まあそれ以前に、そんな非現実的な話を信じるわけなかったし、先生も直ぐに冗談よって笑っていたから、彼女からしたら本当に冗談だったんだろう。
その後すぐに両親がやってきて、私は先生とお別れした。
そして、それから数日後、私は、彼と、また出会ってしまった。
……?またって、なんだろう。


「こんにちは」
「…こんにちは」


夕方の誰もいない近所の公園で出会った、紫色の髪と瞳を持ったその人は、何処か浮世離れした綺麗な人だった。年は多分、私と同じくらい。
彼とこうして対面することに既視感を持ちつつも、全く知らない人だったから、この辺に越してきたのかなと思った。
けれど、彼の綺麗に作られた笑みを見て、その考えは覆される。
違う、彼は普通じゃない。途端にこみ上げてきた恐怖が、私の足を地面に固定した。


「僕のこと、覚えてる?」
「…し、らない」
「……はあ、そっか。残念だよ」


一歩、彼が私に近づいた。私は動けずに、その場に立ち尽くす。
先程まで綺麗に作られていた微笑みは一瞬にして崩壊し、代わりに、ぐるぐると歪んだ仄暗い瞳が私を見つめていた。
夕日に照らされた彼の姿が、影が、とても禍々しいものに形を変えていく。
静かに一歩、また一歩と近づき、とうとう彼と私の距離がなくなった。
彼は、その綺麗な両の手で私の首を掴んで、そして、


「また会おうね。愛してるよ」



*



パッと目を覚ます。
外から差し込む月の灯りが、今が夜だということを私に知らせた。どうやら、うたた寝をしている間に本当に眠ってしまったらしい。
なんだか首がとても痛いけど、そんなに変な体勢で眠ってしまっていただろうか。

それよりも気がかりなのは、やけに家の中が静かなこと。一体どうしたんだろう。
今日は休日で、うたた寝をする前までは、両親がリビングでバラエティ番組を見ていて、ちょっと騒がしいくらいだったのに。お出かけでもしたんだろうか。
不気味に思いつつリビングへ向かったけれど、やはり両親はいない。
でも、電気はつけっぱなしだった。消し忘れ?そして置き手紙も何も置いていない。
やっぱり、おかしい。両親は私に黙って何処かへ行ってしまう人たちじゃない。
これじゃまるで、突然いなくなってしまったみたいだ。
そう首を傾げていると、カタンと後ろで物音がした。母さん?父さん?どっちだろう。
振り返ると、そこにいたのは母さんでも父さんでもなかった。
……紫色の髪と、瞳……?あれ……?


「こんばんわ」
「……だ、れ」
「挨拶、返してくれないの?寂しいなぁ」


クスクス笑うその綺麗な紫は、とても不気味だった。
両親は何処にもいないのに、どうして、彼はこの家の中にいるんだろう。
強盗が不法侵入、なんて言葉は、何故か浮かんでこなかった。それ程、彼は、気味が悪かった。
その綺麗に作られた笑みを、何処かで見たことがあるような気がして、背筋に冷たいものが走る。
これは、今感じているのは、恐怖の感情に間違いはなかった。私は彼に、怯えている。
首の痛みが、余計に強まった、気がした。


「もしかしなくても……また、僕のこと忘れてる?酷い子だね、僕はずっと、覚えているのに」


また?忘れている?一体何のことだろう。
…でも彼の話の通りなら、さっきから感じているこの恐怖は、もしかして一度彼に会っている、からだろうか。
ううん、そんなはずない。だって私は彼と出会った記憶なんてない。
この紫に何故か見に覚えはあれど、記憶には、ないのだ。
怪訝そうにする私を見て、彼は困ったように笑った。
そして、足早に私の目の前へやってきて、私を壁へと追い詰める。
ああ、きっと、この後私は、また、彼に、……?


「…仕方ないよね、だって、何度僕の愛を証明しても、君は僕を愛してはくれない。だから、ねえ」


僕を愛してるって、言ってくれるだけでいいんだ。
いつか見たぐるぐると歪んだ仄暗い瞳が、私の首を締めながら呟いた。


「また、会おうね」



*



「また会おうねって、これ言うの何回目だろうね?」


冷たくなって彼女の肢体を抱きしめて、その唇に口づけを落とす。
何度だって言ってあげる。何度だって君を殺してあげる。いつまでも、君を愛してあげる。


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