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何処へも行けはしない
幼なじみである黒咲隼は、私に対してとても過保護である。
血の繋がりのある両親やお兄ちゃんよりも、だ。私のする事なす事全てを把握していなければ気が済まないらしい。もっと言えば視界に入れてないと機嫌が悪い。
いくつか例を上げていくと、まず友達と2人で遊びに行くことすら嫌がる。相手が男の場合は黒咲家に閉じ込められてその日外にすら出してくれないという軟禁コースまっしぐらだ。学校へ行くのにも、必ず教室前まで一緒。(学年が違ってて本当に良かった。教室内まで一緒かと思うと……胃痛が)

当然それだけじゃない。
朝のモーニングコールから始まり、何故か母でなく隼が私のお弁当を作り(私好みの味付け)、お昼は一緒に食べ、放課後は隼が教室まで迎えに来て一緒に帰る。宿題も隼がいつも手伝ってくれるし、私が自分の部屋なのに把握していない物の置き場所を完全に把握している。怖すぎる。
ちなみに、我が家の人間は、隼に私を任せておけば何も心配いらないという謎のルールが存在しているため、彼らは隼が私にすることに何も言わない。

と、まあ、つまり何が言いたいかというと、私はうんざりしているのである。幼なじみの、黒咲隼に。
ああ、でも、隼のことは嫌いなわけじゃない。彼が私のことを心配している故の行動とはわかっている。ただ、度が過ぎているのだ。でも、私だっていつまでも隼の加護を得ているわけにもいかない。自立への一歩を踏み出したい。


「で?」
「うん?」
「なまえのもう1人の幼なじみ、もといお兄ちゃんの妹である私を呼び出してなまえは何がしたいの」
「お兄ちゃんさんをどうにかしてください」
「無理」


そんな即答しなくても。思わず肩を落とした。
私の目の前に座る隼の妹、瑠璃はストローでグレープジュースを飲みながらやる気なさげに肘をついていた。ちなみに、今私たち2人がいるのは瑠璃お気に入りの喫茶店。落ち着いた雰囲気だけど、以外にも年齢層は10代の若い子が集まるカジュアルなお店だ。


「嫌いじゃないなら良いんじゃない?お兄ちゃんの好きにさせとけば」
「他人事だと思って……。友達とまともに遊べないのは嫌よ。彼氏でもないのに」
「……あれ、付き合ってないんだ」
「ないよ!告白した覚えもされた覚えもないし」


あと、強いて言うならユートの方が好みだ。
なんて言ったらいろんな人を巻き込んで修羅場になりそうなので言わない。前に一度、「あ、あの人かっこいいな」なんてちょっと呟いただけでも大寒波が周囲を襲ってきたし。(もちろん、隼のせいである)


「私このままじゃ隼無しじゃ生きられなくなる……ダメだそんなの!」
「むしろ、それがお兄ちゃんの……」
「ん?」
「っなんでもない。ていうかさ、その行いを過保護で済ませるなまえもどうかと思うよ。もうお兄ちゃんに毒されてる証拠じゃない?」
「う…だって」


本当に、昔からああなのだ。小さい頃からずっと一緒、他の人の友達事情なんて知らなかったわけで、最近になってようやく『これっておかしくないかな?』と感じるようになったわけだ。気付かなかった私も私だけど、放置していた家族も家族なような……もう考えないようにしよう父母やお兄ちゃんのことは。


「なまえはお兄ちゃんが恋人じゃ嫌?」
「嫌っていうか…そういう目で見てないし…」
「ありゃりゃ…これはずっと隣を独占してたことが裏目に出てる…」
「…さっきから何を言ってるの瑠璃」
「んーん。…別に、お兄ちゃんの味方するわけじゃないけど、彼氏にするなら結構良い物件だと思うけどな〜。今のうちになまえもお兄ちゃんの手綱握っといたほうがいいんじゃない?」


いや、だからね。と少し口端を引き攣らせて反論の言葉を並べようとしたとき、瑠璃が小さく声を漏らし、私の頭には温かい何かが置かれた。…この感じ、隼の手だ。


「迎えに来た」
「お兄ちゃん、早くない?まだ夕方の4時だよ、私もっとなまえと2人で話したいんだけど」
「夕暮れ時になまえをオレ無しで外にいさせたくはない」
「うっわ……」
「なまえ、帰ろう」
「…うーん、わかった。あれ、瑠璃はどうするの?」
「私ここにもうちょっといる。じゃあまたねなまえ〜」


ひらひらと手を振りながら、また瑠璃はグレープジュースを口に含み始めた。そんな彼女に手を振り返して、差し出された隼の手を握り返す。とても幸福そうに頬を緩ませた隼の表情を見て、先程まで瑠璃に愚痴をこぼしていたことに罪悪感が少しだけ芽生える。
隼を悲しませたくはないし、私も嫌いなわけじゃないし、まあ…このままでもいいのかなぁなんて。こんなことを考えてしまうのは、やっぱり隼に毒されている証拠なのかもしれない。

私の手をひいて店を出ようとする隼と、未だ席に座っていた瑠璃が一瞬だけ目を合わせていたことなんて、私は全く気づかなかった。




20150329


微やんでれ隼と、お兄ちゃんに一応協力的な瑠璃
黒咲兄妹に囲まれていく女の子は一生隼の隣にいると思います
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