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ホワイトローズを捧げようか
※小ネタの「ユーリくんと」シリーズのスピンオフ。
補佐ちゃんと、ユーリの過去のお話でアカデミアでのユーリ扱い捏造。シリアス調。





僕はアカデミアの誰からも恐れられていた。
プロフェッサーは別としても、一部の者達を除いて、教師すらも畏縮してこの僕に近寄ろうとすらしない。しかし、その一部の者たちも結局は恐怖を心のなかに押し込めているだけだった。僕と目を合わせれば、忽ち内に秘めいていた恐れを曝け出していく。
誰も、僕と対等にはなれなかった。

まあ、僕と対等に歩くことできる奴なんているはずないと思っていたし、むしろそれが良いとさえ感じていた。僕の隣に誰かが並んでも、それは邪魔なだけ。
だけど、そう、僕はあの日、あの時、君に出会ってしまった。


『貴方の目、とても綺麗ですね』
『…なに……?』
『だから、貴方のその紫の瞳がとても綺麗だって。耳遠いんですか』


最後の言葉は、当時の僕には聞こえていなかったと思う。
何故なら、しっかりと僕を見て言葉を話す子なんて今までいなかったから、僕はとても驚いていた。誰も彼も僕を畏怖し、僕の視界に入らないように努める。
なのに、君はわざわざ僕の前へとやってきて、臆することもなく僕の目を見つめて、綺麗、だなんて微笑んで。


『っなまえ…!ちょっと…!』
『あ、ごめんね今行く。…それが言いたかっただけです、それじゃさよなら、ユーリくん』
『……』


焦った表情で彼女を連れて去っていく女学生なんて、僕の視界には入らなかった。ただ腕を引かれて少し面倒くさそうに歩いて行くその後ろ姿を、僕はジッと見つめていた。
なまえという名前だけを、しっかり記憶して。

それから、僕の脳裏からなまえの姿が離れることはなかった。
僕はこのアカデミアの中で特別。だけどなまえはそうじゃない。他と何ら変わらない、ただの学生だ。なまえがただの学生の中に混じっている限り、僕は彼女に近づけない。近づけたとしても、あの居心地の悪い空間から脱せずに彼女と2人きりで話せるはずがない。

どうしても、なまえを僕の傍に置いておきたい。僕は考えた、どうすればいいのかと。そして調べた、その時名前しか知らなかった彼女のことを。


『へえ、中々優秀なんだね。さすが、僕が目をつけただけある』


ちょっと教師にお願いをすれば、カタカタと震える手で書類が渡された。そこには、みょうじなまえと、彼女の名前がしっかりと記されていた。
その書類を借りて、僕はプロフェッサーにお願いをしに行った。みょうじなまえを、僕の直属にしてほしいと。
書類に軽く目を通したプロフェッサーは、僕に少しだけ視線を向ける。


『ユーリ、君に部下は必要なのか?』
『いいえプロフェッサー。でも、僕には彼女が必要です』
『他の者ではいけない理由は?』
『僕を恐れてばかりの人間なんて必要ありません。僕に必要なのは、なまえだけです。お願いですプロフェッサー』
『…まあ、いいだろう。君の好きにしなさい、ユーリ』


指令は下しておこう、と少し可笑しそうに笑うプロフェッサーなんて、僕は気にしなかった。プロフェッサーのお許しも頂いたことだし、早く彼女を、なまえを僕の元へと引きずり込んでやりたかった。
あれほど邪魔だと思っていた僕の隣を、なまえに歩いて欲しかった。


『やあ、なまえ』
『?…あ、ユーリくん』


僕にしてはとても機嫌の良い笑顔をしながらなまえを迎えに行けば、とても怪訝そうな顔でこちらを見ていた。あの1度だけの接触は誰にとっても驚きだったはずなのに、どうやらなまえはなんとも思っていないようだった。
その証拠に、隣にいた女学生が慌て始めたのを見て、不思議そうな顔をしている。女学生のほうは、どうせ僕がなまえを苦しめるようなことをするんだと考えているんだろう。そんなことはしないさ、してみたいけど、なまえを壊すのは本望じゃあないんだ。


『君を迎えに来たんだ、僕と共にプロフェッサーの元へ行こう』
『迎え?どうして』
『君が僕の補佐だから』
『は?』
『プロフェッサーのご命令だよ、さ、早くして』


僕がプロフェッサーにお願いをしたことは伏せておく。そんなことをしたら余計周りがうるさいし、プロフェッサーの命令なら誰も文句は言えない、従うしか無い。なまえだって、アカデミアの人間なんだから、プロフェッサーに逆らうなんてことできないだろう。
心配そうに見つめている女学生を気にもとめず、なまえは立ち上がって僕の元へとやってくる。


『……』
『ふふ、じゃあ、僕と一緒に行こうか』
『1人でいいですけど』
『君は僕の?』
『補佐になっちゃったんですよね、わかりました。一緒に行きます』
『いい子だね』


僕が差し出した手を、戸惑いを隠せない様子で握り返す。
その瞬間、なまえは完全に、僕の隣に立ったんだ。それは決して距離の話ではないよ、よく見るんだ。なまえのお友達ってば、僕を見る目でなまえを見ているよ?

これでなまえが僕以外の誰かに振り返ることなんてない。





「何をニヤニヤしているんですか」


ひょいっと横から顔を覗きこんできたのは僕の補佐のなまえだった。左手で抱え込んでいるのはなまえのカード。どうやらデッキを調整していたらしい。

にしても懐かしいことを思い出していた。あれから、どれだけの時間が経ったのか。相変わらずなまえは僕の補佐で生意気な口ばかり聞くし、なまえには僕しかいない。僕にも、なまえしかいないのは変わらない。未だ他の奴らは僕らに怯えきっている。


「あ、理由もなくニヤついているのはいつものことですね、変態」
「それは僕のことじゃないよね」
「ユーリくん以外の誰が変態だって言うんで……否、2人くらいいましたね、変態」
「デニスはともかく、プロフェッサーが怒るよ」
「誰もデニスさんとプロフェッサーとは言ってません」


ホンット…口の減らない子だなぁ。まあ、そうじゃなければ此処にいないんだろうけど。

それよりほら、そのデッキ調整手伝ってあげるよ。そのために僕のところに来たんでしょ?ニコリと笑って言えば、なまえはピタリと動きを止める。


「その猫かぶり笑顔、私がユーリくんの補佐になったときぶりですね」
「あれ、覚えてるの」
「覚えてますよ、その笑顔って割と珍しいし。でも私その笑顔はあまり好きじゃありません」


そうやって笑うと、ユーリくんの綺麗な目が見えなくなってしまいますから。
なんでもないことを言うように笑ったなまえは、何一つあの頃の変わりはなかった。


「ほら早く、デッキの調整手伝ってくださいよ、ユーリくん」


ああ、もちろん



20150324

特に落ちなどない。
補佐はユーリの身体の一部をよく褒める

会った時と何一つ変わらない補佐。それはつまり、昔補佐のとなりにいた女学生は、ただ隣にいただけで一緒に歩めてはいないということなのです。補佐は彼女のことを何も思っておりません。だからいなくなってもなんでも言いのです。
ユーリと一緒で、ずっと1人で歩いていたのです。
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