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唇から君への愛
「ねえユーリぃ……」
「なに?」
「私今本読んでるんだけど、退いて欲しいなぁ」


やだ。
後ろから体重をかけてのしかかってくるユーリが笑う。
状況を説明するならば、私がベッドの縁に座って本を読んでいたところ、突然部屋にやってきたかと思えば無言でベッドに上がり私の背後から身体を預けてきた、という感じだ。最初は何をされるかとビクついていたが、それからは何をされるわけでもなく、強いて言うなら腰に手が回ってきたくらい。その手がお腹を撫でつけて、ちょっとくすぐったい。


「それ、昨日オベリスクフォースの奴に貰ったものでしょ」
「そうだよ。え、なんで知って」
「なまえの事ならなんでも知ってる。さ、そんなもの放っておきな」
「良いところなのに」


知ったことか、とでも言うように私の手から本を奪い取ってぽいっと床に放り投げる。前から欲しかった本なのに、何てことするんだ。
突然、視界がぐらりと揺れて、背中に柔らかい感触、あ、これいつものベッドの感触だ。視界も床の本ではなく、映るのは天井と、ほんの少しの紫。


「ユーリ?」
「なに」
「どういう状況?」
「添い寝。僕眠たいんだよね、抱き枕になってよ」
「既になってるんだけど……」


後ろから感じていた温かい体温は左半身に移って、でも腰に回る手は変わらず。ユーリのぴょんとはねた髪が私の首筋をくすぐる。もぞもぞとユーリが擦り寄ってきて、左足にユーリの足が絡みついた。


「んー、今日は甘えたさんなの?」
「……別に。ねえ、それよりこっち向いて」
「え?うん」


少し身体を傾けて、ユーリと向き合う形になる。うわ、近い。……睫毛綺麗だなー、お目目もパッチリとしてて羨ましい。まじまじと観察していれば、唇を尖らせて見てるだけ?と不満気にされる。


「キスしてよ」
「うぇっ!?」
「早く」


すうっとユーリの目が細められる。これは早くしないと酷い目に合いそうな、そんな予感がする。今までの経験からしてこういうユーリに逆らうと絶対によくないことが起きる。羞恥心よりも、何をされるかという恐怖の方が打ち勝った。
ユーリの頬に手を当てて、少しずつ唇を近づけていく。ちなみに、この時目を閉じるなんてことをしたら変な悪戯されるし、かといってユーリが閉じてくれるわけもないし、諦めている。ふにゅっと柔らかい感触が唇にあたった。


「…っふ、ゃあ?!」
「ん……ふふ、ちゅ、んむ」
「んんーっ?!」


触れただけの筈が、にゅるりと生暖かくてザラついた舌が唇を割って入ってきた。執拗に舌を絡めとられてしまい、次第に酸素が足りなくなってくる。酸素を取り込もうとだらしなく開けた口の端から、どっちのものかわからない唾液が伝うのを感じた。それを見て満足でもしたのか、クスクス笑いながらユーリは唇を離す。うう、なんだっていうの。


「ご馳走様」
「っはあ…な、なに……もう」
「欲しくなっただけ。ほらほら、よだれ垂れてるから、拭いてあげる」
「…っ!それ拭くって言わない!舐めるって言う!」
「うるさいな、一緒でしょ」


さぁ寝よう。
睨みつける私にニッコリ笑いかけると、ユーリは私の身体をギュッと抱きしめて瞳を閉じた。つまり、こちらの言葉はもう聞く気がないということだ。
仕方ないので、私もユーリの温かい体温に包まれながら目を閉じる。
眠りから覚めた時、寒い思いをしないよう、ほんの少し身体をユーリへ寄せた。





20150320
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