日溜まりのなかで



『ちょっと、それ返しなさいよ。いくら温厚な俺でも怒るよ?』

ぽかぽか陽気の公園で

『嫌です、もう全部読んだんでしょ?』

デートのはずでしたよね

それなのに…
全蔵さんときたら…
さっきからジャンプに夢中であたしの事まるで放置じゃない!

あたしはさっちゃんさんとちがって、放置プレイに興奮なんてしませんから

『一回読んだだけじゃ分からないもんがあるかもしれねぇ』
そう言ってあたしの手からジャンプを奪い取ろうとする

全蔵さんはあたしよりジャンプが好きなの?

『あたし達の関係って…一体なんなんですかね』
遠い目で呟いた

『俺らの関係?って…付き合ってるんじゃないの?なに?そう思ってたの俺だけ!?』

付き合ってる
そのひと言に安心してはダメ

『じゃあ…、あたしとジャンプどっちが大事なの?』

『えッ………?』
戸惑う全蔵さん

ちょっと、なんで即答出来ないのよ!!

…もういい
こんなもの、捨ててやる

ジャンプを握りしめたままゴミ箱に向かって歩き出したあたしをあわてて引き留める全蔵さん

『違うからね!迷ったとかじゃないから』

『いいッ、何も言わないで!』

どうせあたしは…
自分で言うのもなんだけど全蔵さんの好みのブスッ娘ではないし、ジャンプみたいに面白くもなんともないフツーの女ですよ

『いやいやいや!彼女とジャンプを比較する事自体がおかしいよね!?比べられるもんじゃないからね!』
目が隠れている顔は明らかに焦っていた

それはあたしが涙を浮かべてたから

『全蔵さんにあたしは必要?あたしの存在意味ありますか?』

ズルいよね
女の子の武器を使うあたし


『必要だ、アンタが隣にいてくれなきゃ落ち着かねぇ』

全蔵さんもズルい

そんなこと言われたら
あたしが気にしてた事なんてどうでもよくなるから

『俺は一緒に居れるだけで…』
もう全部言わなくてもいいですから


日溜まりのなかで

あたしは精一杯背伸びして
全蔵さんにキスをした





『…丸く収まったとこで』

ベンチにもどってぴったりくっついて座っていたら全蔵さんが手のひらを差し出した

『ジャンプ、返してくれるか』

あたしはにっこり微笑んで

『あああああっ!』

ジャンプを力の限り遠くに放り投げた

企画サイト『巡る』提出。


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