未来捏造 第七班 ナルトとサクラ





「ねぇ、サスケ君、大好きよ」

今宵は花の金曜日。賑わう居酒屋の一角に、酔いどれたくノ一と忍一人。
日々の鬱憤を晴らすかの様に散々愚痴を話すと、くノ一、春野サクラは初恋の相手である忍、うちはサスケに見惚れるなり溜息を零し、囁く。

「…んな言葉、オレじゃなく彼奴に言ってやれ」

彼奴、その言葉にサクラはぴくりと反応すると、ごまかす様に日本酒が注がれたお猪口をぐい、と飲み干した。その様子にサスケはあきれ顔浮かべるや否や、深い溜息を吐き出した。

「良いのォ!彼奴の事なんかァ!」

更に酔いが廻って来たのか、呂律が回らなくなって来たサクラにサスケはいよいよ我慢ならねぇとばかりにギロリと鋭い視線を送り、心なしか口調も荒くなった。

「良い加減飲み過ぎだ、サクラ」
「イイじゃない、たまには付き合ってよォ、サスケくぅん」

まだ幼かった12歳の彼女であったら、サスケの視線に怯えて居たであろう。だが今の彼女は怯える処か、この状況を楽しんでいる始末だ。
あぁ、くだらねぇ。と心内で悪態を付きサスケはサクラの話を右から左へと受け流す事を心に決めた。
だが、酔っ払いくノ一春野サクラはそれさえ許さずに、簡単にサスケの心情を乱す。

「こんなぁ酔いどれ女の愚痴を二、三時間聞くくらいの事はしてよねぇ、私は青春時代全てを貴方に捧げたんだからぁ」
「…悪いと思ってる」
「本当よねぇ、初恋の人にぃ、本気で殺されそうになった乙女の気持ちをォ考えた事あるぅ?サスケ君はぁ」

酔っ払いだ。悪気は無いだろう。きっと明日には記憶も無いだろう。
この類の話をサクラから聞くのは始めてだった。第七班のチームメイトの中では何よりもデリケートな部分であるそれに、不躾に触れる様な事は絶対になかった彼女だったから。
サスケは居た堪れなくなり、先程注文した熱燗を飲み干した。

「本当にねぇ、大好きだったのォ、貴方が。誰よりも。あの日、一緒に連れて行って欲しかったなぁ」

あの日の事。サスケは直ぐに、この木ノ葉の里を抜けたあの日の夜の事だとわかった。
あの日がサクラとの永遠の別れだと思って居た。勿論、ナルトとも、だ。
だが、結果、切った筈の繋がりは自らが切らせまいと、心の奥底で必死に繋ぎ止めて居た事を知ったのは、記憶に新しい。
薄く微笑むと、サクラには分かるのか、お酒で暑くなった頬は更に赤く染まり、あぁ、やっぱりサスケ君は格好良いわぁ、何て言うもんだから何とも居た堪れない。と、言ってもだ。

「…私ねぇ、サスケ君が一番に好きよォ、大好き」
「それを聞いたら、彼奴、ナルト、失神するか、大暴れするぞ」
「良いのォ!知らない、あんな奴ぅ!!」

他の男よりも、己が一番だと頬を染める女を、今はどうも思っていないとしても、嬉しいと思う気持ちは持っても良いだろう。
摘みの刺身を一切れ口に頬張る。山葵醤油がまた、お酒が入った身体には格別、刺身の美味しさを引き立てさせる。

「それにぃ、ナルトの一番は、私じゃないもの。私だけ一番はナルト何て、悔しいじゃない!!」
「…ほぉ」

進んで居た箸が止まる。刺身に向いて居た視線は再びサクラへと向いた。サクラはお猪口に何倍目かも分からぬ、お酒を注いでは、飲み干した。

「彼奴の一番はねぇ、サスケ君なの。どんなに頑張ってもサスケ君なの。で、次に里と仲間。最後に私なの。彼奴は誰が一番だとか考えてないんでしょね、だって彼奴にとって全部大切だもの。でも、やっぱり一番はサスケ君なの。それだけは変わらないの。ねぇ、悔しいでしょう?だから私も一番はサスケ君なの。ねぇ、サスケ君、一番に好きよ。仲間として、初恋の人としても」

でも、と続けると、サクラは酔いで垂れた目尻を釣り上げ、サスケを睨みあげる。

「ー…でも、でもね、ちょっとだけ恨めしいわ、彼奴の一番である貴方が」

サスケは成長したな、と他人事の様に思う。最強の名を欲しいままにした天下のうちは一族の末裔、うちはサスケに背筋が凍る悪寒を感じさせられる事が出来るのは、今は英雄、うずまきナルトと、そして目の前に居る彼女だけだ。
あの、俺の背中を追いかけて居た少女は本当にもう居ないのだと少し寂しくもあった。だが、嬉しく思うサスケも居た。
頼もしく、美しくなったサクラは本当に良い女だと、惜しい気持ちにさせる。

「お前は良い女だよ、サクラ」
「あら、今頃知ったの?」

悪戯っぽく笑う笑顔は、彼奴に良く似ている。誰かが話していたっけ、女は好きな男に笑顔が似る、と。
滅多に笑わないサスケが喉を鳴らし、笑う。
あぁ、此処に彼奴が居れば。そう思った矢先、良く知る気配を感じ、ニヤリと口元を歪ませた。

「サクラ、彼奴に飽きたら何時でもオレの処に来い。お前を養う蓄えはあるし、強い子供を産ませてやれる。何よりも大事にしてやる。一生を掛けてな。」

サクラの目を真っ直ぐ見て、サスケは真剣な面持ちで語る。言葉に偽りは一つも無かった。サクラもそれを分かっている。だからこそ、泣きそうに笑うのだ。

「おい、こら!人の嫁さん口説くとはとんだ腐れ野郎だな!サクラちゃんは渡さねぇってばよ」

やっとお出ましか、とサスケは呆れた様に、だが心を踊らせながら、嫌味な笑みを浮かべた。
サクラは、サスケくぅん、とうっとりした眼差してサスケを見つめ、ナルトはそんなサクラにヤキモチを焼く。まるで、幼い頃の様だと、三人其々思い馳せては、笑った。望んだ未来が今、此処にある。
まだ夜の十一時、二次会の突入だった。


:


「あんがとな」

サクラが酔い潰れて眠るまで飲み会は続き、店を出たのは深夜の三時だった。
飲み過ぎた、とサスケが覚束ない足取りで暖簾を潜り、ナルトはほんのりと頬を染めてはいるがサクラを負ぶって自宅に帰る余裕はあった。
軽く挨拶をし、また明日と手を上げ、いざ家路に付こうとした時、ナルトの声がサスケを呼び止めた。

「サクラちゃんの話に付き合ってくれて、サンキューな」

それは、旦那の余裕なのか。サクラに付き合っていたのはナルトの為ではなく、サクラを掛け替えのない仲間だと思うからでもあり。
その言い振りに、酔っている事もあって、サスケは少し苛立ち振り返る。
だが、振り返ればナルトは満面の笑みを浮かべていた。

「サクラちゃんの一番は、悔しいけど、サスケだかんさ!」

あぁ、似たもの同士だ。
先程、同じ様な言葉をサクラから聞いたサスケは、もう笑うしか無かったのだ。一生敵わない、この二人には。

「あ!でも、サクラちゃんは渡さねぇかんな!」

一生、やってろ、バカップル。
と言い捨てて、サスケは二人に背を向けていよいよ家路に付く。

ナルトの一番も、サクラの一番も、オレ。悪くねぇじゃねぇか。






∵ 三人が生きて幸せならそれがハッピーエンド。誰かが欠けた未来は見たくないなぁ、と言う妄想の産物。
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