ナルトとサクラと息子 ミナトとクシナ 未来 1000hitリクエスト






里から程よく離れた森へと、家族三人で赴いた。目指す先は森の中にある草原。
これから向う場所を知らない我が子は、木漏れ日に照らされた森道を夢中で掛けて行った。
里の外を知らぬ目に映る新しい世界は輝いて見えるのだろう。楽しそうな笑い声が静かな森に響く。

「あんまし、遠くに行くんじゃねぇってばよ!」

声を張り上げて注意を促すが駆ける速度は緩まず、遂に母が一喝を入れる。途端に歩き出す様子に笑みが零れた。母親に弱い所は父子揃って似ている様だ。変な所で似ないで欲しいと呆れた態度をとるが、その表情はとても華やかだった。
そんな妻が何年経ってもやはり愛しくて。その手を握りしめた。

「久しぶりだな、こんな時間」
「何年振りかな」
「彼奴が産まれてからだから…」
「五年振りくらいかしら」
「すっげぇ待たせちまったなぁ」

母の目を盗み、遠くで再び駆け出す息子を遠目に、今は亡き父と母に思いを寄せた。
髪を撫ぜる風は、母の掌。葉を躍らせる音色は眠り歌。済んだ青い空は父の瞳。茜色の夕日は母の髪。何度、この自然に慰められて来た事か。
今日はオレが産まれてから三十二年目の秋でも有り、父と母が眠り付いてから三十二周忌でもある。
無邪気に駆ける息子が目指す先は、両親が眠る丘の上だ。
この身体にこの腐れ縁が封印された始まりの場所で、父と母が最期を共にした終わりの場所。
八年程前に漸く辿り着けた場所の地を踏んだ瞬間、頬を伝って流れた涙を、鮮明に記憶に残っている。名前が刻まれた墓石を日が暮れるまでずっと見続けていた。
それから、何度も足を運んだ。愛している人が居ます。夢を叶えました。家族になります。家族が出来ました。だけど、息子が産まれてから五年間、多忙を極めてしまい、中々足を運ぶ事が出来なかった。
だが、今年だけはどうしても訪れたかった。来年、息子はアカデミーに入学する。入学をしてしまえば、時間は更に取れなくなってしまう。その前に、何としても孫の顔を見せたかった。

「父ちゃん、母ちゃん、広いとこに出たってばよ!」

遠くで手を大きく振る息子に、手を振り替えした。すると、再び駆け出し草原を掛けた。笑い声が静かな草原に広がり、息子の後を追い掛ける様に赤に黄色、鮮やかな落ち葉の葉が空に舞う。その様子が、まるで父と母が喜んでいる様に見えて、少しばかり目頭に熱が集まった。

「綺麗だってばよ!」

口調が移ってしまった息子の言葉遣いを直したいと小言を何時も零すサクラも、今日ばかりは何も話さず、唯静かに草原を眺めた。
訪れる度に、背筋を伸ばして誇らし気に表情を凛とさせる様子が本当に嬉しくて。こんな綺麗な場所に来た事が無いと、話す笑顔が好きで仕方が無かった。

「何時来ても、此処は綺麗ね」
「うん」

何時の間にか長く伸びた髪が風に躍らされ、揺れる。その光景が余りにも綺麗で。頬が緩むのが分かった。何度だって思う。生涯を寄り添う相手が彼女で良かったと。

「父ちゃん!」

遠くで名を呼ぶ声に視線をやり、駆け寄って来た息子を抱き上げる。初めて抱いた時よりも増えた体重に、喜びを感じる。昔の自分はもう少し細かった覚えが在る。こうも健康に育ってくれたのは、何よりも妻のお陰で。自分と良く似ていると言われる笑顔を見て、どうかこの子には寂しい思いをさせたくはないと、切実に思う。
何時自分が亡くなるか分からない。だけど、せめて幼少期だけは幸せな思い出を残したい。同じ金色の髪を撫でた。

「父ちゃん、あれ何?」

無邪気に声を上げて小さな指で指した場所は、一本の木がそびえ立つ場所だった。その場所こそ父と母が眠る場所。
息子の頬に口付け残し、地面に下ろし手を引いた。何時もと違う空気を纏っているのが分かったのか、静かに手を引かれるまま歩いた。その後をサクラが追う。

「あそこにはな、お前のじいちゃんとばあちゃんが居るんだ。」
「じいちゃんとばあちゃん?」
「そうだってばよ。良いか、お前のじいちゃんは四代目火影だったんだぞ。」
「すっげぇってばよ!あ、でもさでもさ、父ちゃんだって六代目火影だろ?」
「でもお前のじいちゃんは父ちゃんよりも先に火影になったから、もっとすっげぇんだぞ!」
「すっげぇ!!父ちゃんよりもすっげぇ!!」
「そうだってばよ、父ちゃんよりも格好よくて、すげぇんだってばよ!」

父と子の声が草原に谺した。オレの父ちゃん凄いんだぞ、と実の息子に自慢をする様子はとても可笑しくて、だけどとてもナルトらしかった。
木の根元に付くと、其所には白い石盤があった。掘られている文字はとても淡白だった。

波風ミナト うずまきクシナ
此処に眠る。

十月十日

辛うじて父に似ずに勉強が出来る我が子がその字を読み上げた。五歳児が漢字まで読めるのはさすがサクラちゃんの息子だと関心さえざるを得ない。将来は自分よりも頼もしくなりそうで、心の中で笑みが零れた。

「これがじいちゃんとばあちゃん?」
「そうだってばよ」
「じいちゃんとばあちゃん、死んじまったのかってば?」
「父ちゃんが産まれて直ぐに亡くなっちまったんだ」
「…会いたかったってばよ」

純粋な言葉がまるでオレの気持ちを素直に代弁してくれている様だった。自分とそっくりなだけに、まるで幼い頃の自分の様で切なさが心を包んだ。
同じ歳の頃、恋しくて仕方なかった両親。眠れない夜は、声も知らない母の眠り歌で眠った。夕暮れの公園で一人取り残された日は、触れた事の無い父に手を引かれて帰る光景を脳裏に浮かべて家路を歩いた。
掘り起こせば起こす程、とても眩い思い出とは言えない記憶に、一度だけ切な気に微笑んだ。
だけど、昔、一度だけ精神世界で会えた両親の姿が、暗い記憶を攫ってくれる。愛していると微笑む、愛。信じていると、託された意志。
会いたいと囁く息子の頬を撫で、その小さな背中を前へと押し出した。

「…ああ、父ちゃんも会いたかったってばよ。さぁ、じいちゃんとばあちゃんに堂々と自己紹介してやれ!」

幼い頃を思い出すと、やはりまだ心が痛む。何度この痛みに捕われて来た事か。だけど、両親の愛が。家族がこの痛みを癒してくれる。妻の微笑みが、息子の笑顔が。
近い将来、完全に癒えたこの心の痛みとの別れる時、笑顔でありがとうと言えたら、オレは漸く全てから解放されるのだ。

「オレってば、うずまき佐助!将来の夢は火影を越す!んでもって里中の人を守れる火影になるってばよ!」








再び駆け出した佐助を見失わぬ様、視界に入れながら、サクラと再び手を繋ぎ草原を歩いた。普段は家事や業務に追われて、中々落ち着いた時間を過ごせないで居る為、今日だけは端を捨てて恋人同士の頃の様に手を繋ぎ、ナルトの肩にサクラの頭が乗せられている。
先ほどの佐助の自己紹介に、何処か覚えがあり、それが第七班結成当時にナルトがした自己紹介と似ていると分かると、サクラは可笑しそうに笑いを上げた。

「きっと、お父さんとお母さん、佐助がナルトそっくりで笑ってるわよ」
「母ちゃんってば、絶対にグワハハって野蛮そう笑ってるってばよ」

と、冗談で言った瞬間、風に乗って飛んで来た小さな看板がナルトの頭に直撃して、サクラはいよいよ腹を抱えて笑うしか無かった。








一方、サクラが腹を抱えてて笑っている時、佐助は駆ける足を止めていた。遠くで見える父と母以外の大人の男女。両親に似て好奇心旺盛で人懐っこい佐助は迷わず二人駆け寄った。

「兄ちゃんと姉ちゃん、誰だってばよ?」

そう問い掛けると、女の人は唇に人差し指を宛て、静かにとジェスチャーを施す。佐助はそれを理解したのか、口を閉ざした。すると、にこりと笑う女の人の笑顔は父の笑顔と似ていた。男の人が佐助の頭を撫でた。とても温かくて、この人もまた父と似ていた。
それだけじゃない。金色の髪、青い目、大きな目。まだ幼い佐助は何となくだけど、この人達が誰なのか分かった。

「もしかして、じいちゃんとばあちゃん?」

そう呼ぶには余りにも若い二人だったけど、佐助の問い掛けに笑顔を浮かべた。

「大きく育ってね」

そう残して、落ち葉となって散って行った。







紅葉と風と









∵ 余にも素敵なシチュエーションで詰め込みたい物があり過ぎて長文になってしまいました。すみません。リクエストはナルサク未来で息子と一緒にミナクシの墓参りとの事だったんですが、どうでしょうか。愛を込めて、貴方に送ります。
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