ナルト(32)とサクラ(16) 歳の差



火影邸の長い廊下を歩いて行くと、大きい扉に打ち当たる。その扉は火影室への入り口だ。私はその中の人に用があり、扉を叩いた。すると、中から火影は居ません、何て居留守も甚だしい馬鹿な返事が返って来ようとも、構わずにドアノブを捻った。

「入ります」
「此処、一応火影室で、緊急の時と火影呼び出し以外の訪問は駄目なんだってばよ?」
「知ってますよ」

机に突っ伏して項垂れる火影様を余所に私は持って来たお弁当を来客用の机に広げた。時計の針はもうお昼の時間を指している。どうせ今朝も寝坊して朝食を抜いてしまい、お腹を空かしているに違いない。現に、お弁当を広げた瞬間に火影様は机から顔を上げてこちらをジッと見つめている。
雑誌で男を落とすならば胃袋から、と言う記事を食い入る様に読んだのは何時の事だったか。もう、3年程続けているい胃袋を掴むわよ作戦は、もはや風習になりつつある。効果の程は、長い目で見る事にした。
弁当用の箸を机に置いて、漸く視線が感じる先へと目をやった。目と目が合うと、気まずそうに眉を寄せては、視線をそらす。
本当はと言うと、そういう態度や、私を避ける態度は、私の心臓をどう仕様もなく苦しめる。
けれども、無謀に近い恋を諦め切れないのは、私の火影様への好きな気持ちは嘘になってしまう様で。意地に近いのかもしれない。
膝の上に置いていた掌でスカートを少し握りしめた。

「ご飯の用意、出来ました。今日は火影様の好きなハンバーグを作ったんです。あ、勿論、野菜もありますけど!」

何時もの調子で、笑顔を浮かべては明るく振る舞う。空元気だと気付かれたのか否や、帰って来たのは溜息だったけど、渋々でも椅子を立ち上がってくれたのだからこの際、忘れる事にしよう。恋にポジティブシンキングは大事だと紅先生に教わったのは記憶に新しい。
火影様が机を挟んで向かいに座ると小声で食べ物には罪は無い、と呟くと両手を会わせて箸を手に取り、メインのハンバーグを一口頬張った。

「あれ、何かハンバーグの中に入ってる?」
「ハンバーグの中にチーズを入れてみました」
「美味しいってばよ」
「そう言って頂けて本望です」

はち切れんばかりの笑顔を浮かべながら、私が作ったお弁当を食べてくれる姿を見るだけで、幸せな気分に浸れる。
何時も何だかんだと言いながらも、ご飯粒一つも残さずに平らげてしまうのだか、何処までも底抜けに優しい人になどだと想う。
子供の様にご飯粒を頬に付ける姿がおかしくて、可愛らしくて、愛おしくて。惚れた弱みなのか、少し笑みを零す。

「ご飯粒、付いてますよ」

ご飯粒を指で救いあげては、そのまま自分の口へと運んだ。こんな一面を何処かの恋愛小説に似て居ないだろうか。まるで恋人同士の様だと錯覚し、思わず心が躍る。けれど、火影様の真剣な表情に邪心は一清されるのだ。

「サクラ、オレはサクラの気持ちには答えられないってばよ。」

何度も聞いて来た言葉。もう慣れてしまって、今では涙も出なくなった。唯、私も同じ様に真剣な表情をするだけ。
始めて想いを告げたのは、下忍になってまだ陽が浅い頃だった。任務で失敗してしまい、人気のない夕方ねたアカデミーで誰にも気付かれぬ様にひっそり泣いている時だ。誰にも見付かる事は無かったのに。糸も簡単に見つけ出しては、私の髪を撫でて慰めてくれた。今考えれば相手は里を納める長だから、見付けられない筈はなかったのだけれど。私は髪を撫でる大きな手を、暖かい笑みと声を、大好きになってしまったのだ。火影様だと知ったのは後の事だった。
あれから3年が経ち、私は16歳の美少女に成長したのだけれど距離は縮まる事は無く、逆に遠のいて行くばかりで。14歳も離れているし、最強の名を欲しいままにする六代目火影様だし、恋はしないと断られるしで障害ばかりの恋だけれど、逆にそれが私を燃えさせるのか、好きな気持ちが消えない。
諦める方法など、知って居るのなら教えて欲しいくらいなのだ。

「それでも、火影様が好きです。大好きなんです。」

ぽたり、と強く握り締められた掌の上に何時の間にか流れて出ていた涙が零れた。
年を重ねる度に好きな気持ちが増して行く。何度振られても、冷たい言葉で突き離されてしまっても。
私のお弁当を美味しそうに食べてくれる。屈託のない笑顔が私の心を癒し、大きな暖かい掌に髪を撫でられる心地よさ。まるで年端も行かぬ少年の様にトラップを仕掛ける悪戯小僧な笑顔。時折見せる酷く寂しいそうな背中。
増えて行く。日が登り沈む回数と同じくらいに。
花や木々を見つめ優しい瞳。子供達に囲まれては無邪気に戯れ。決して己の涙は流さずに、仲間の為ならば留めなく流す涙は何処までも澄んで居て綺麗だ。
あぁ、もう。彼を好きだと想いを馳せる女性は沢山いるけれど、これ程にも、身を焦がす様に貴方を愛しているのは、きっと私だけ。命を捧げても良いとさえ思うのだから。だけど、彼が命を捧げるなど、望んでなんて居ない事くらい分かっていた。
流れて止まらない涙を一生懸命拭って、顔を上げた。辛そうに歪められた火影様の顔を真っ直ぐ見つめる。

「私程、火影様を愛している人は居ませんよ。いい加減、諦めて下さい。」

静かな部屋に響いた。外には子供達の笑い声が聞こえる。風がカーテンを撫でた。
私は唯、真っ直ぐに火影様の目を見た。きっと、また、諦めてくれと言われるんだろうけれど、だけど生憎そんな言葉だけじゃ私の心は凍らない。何度だってアタックしてアタックしてやるわ。一生、愛だけの人生だと、言い放ったのは自分だもの。さぁ、来なさい。と、息込んだ時だった。
真剣な表情がどんどん、情けない表情に崩れて行き、頬が紅潮して行く。

「…もう少しだけ、待ってくれ。」

小さい声で。本当に消え入りそうな声でそう言うと、立ち上がり私の頭を撫でて行くと、そのまま扉へと向ってドアノブを捻り、情報部に用が在るからちょっと言って来るってばよ、と空になったお弁当箱と状況に付いて行けていない私を残して部屋を出て行った。
暫くして火影様の足音が聞こえなくなってから、動きが鈍くなった思考回路をフル機動させて状況を整理してみた。私の何度目か分からない告白に火影様は始めて顔を紅潮させて、そして、何て言ったっけ。

もう少しだけ、待っててくれ。

さっき確かに耳に届いた言葉が頭の中で何度も何度もリピート再生される。同時に、衝動的に私は部屋のドアノブを捻っていた。
既に遠のいて小さく見える、六代目火影と書かれた羽織りを背負っている背中に向って、声を張り上げていた。

「待ってます!ずっと待ってます!死ぬまで待ってますから!」

驚いて振り返った火影様の頬は遠くからでも分かるくらいに赤く染まっていた。
16歳の夏、生涯だらけの恋が実る予感がした。








任務報告書を火影まで直接提出渡しろと言い渡されたのは任務に出る前だった。任務が無事に完遂して半日が経ったお昼。今の時間はサクラのお弁当を食べているだろうと安易に想像が出来る。愛読片手に火影邸に足を踏み入れた時だった。突然、張り上げられた声は確かに聞き覚えがある物だった。それが自分の教え子の物であると思考が結びつくにはそれ程時間が掛からなかった。
ナルトと何かあったな、と直ぐに推測出来た。喧嘩をしていたら少し面倒だな。けれど提出しなければいけない。重い足取りで火影室へと歩を進めると、向かいから顔を真っ赤に赤面させたナルトが見えた。これは本当に何かあったな様だ。

「何、どうしたのよ。」

声を掛けると驚いた表情を浮かべた。どうやらオレに気付かなかったのか。それ程に切羽詰まっているのが分かった。
驚いた表情から段々と恥ずかしそうに顔を歪めては、近くの壁に寄りかかるその様子に何となく何が起きたのか状況が掴めて来た。

「…何かオレもう、落とされそうなんだけど。どうしてくれんだってばよ。お前の部下だろ。」

照れ隠しなのかどうなのか、オレを睨みつける視線は火影最強と唄われている人の睨みとは思えない程に弱々しい物で、そんなナルトに恐れを感じる筈もなく、ナルトを余所に窓の外の空を見た。きっと、今頃満面の笑顔を浮かべているだろう教え子の様子を想像して少し笑ってしまい、この時ばかりは口布の存在に感謝をした。
忍になったばかりの小さな少女に火影様が好きだと打ち明けられたあの日からどれ程の時が経っただろう。昔、彼奴だけは止めておけと忠告したオレに見せてやりたいよ、ナルトのこんな姿を。
戦友であるナルトにも、教え子でもあるサクラにも、幸せになって欲しいと切実に思う。
脳裏に恩師とその妻の姿を浮かべては気付かれない程度に笑みを零す。用事を澄ませて邪魔者はさっさとこの場を去ろうとしよう。

「ナルト、これ報告書だけど、」
「カカシ!」

サクラとナルトが笑って友に暮らす未来が瞼に浮かんだ。







∵ 歳の差萌える。年下過ぎるサクラにドキマギするおっさんナルトも良い。ヘタレなナルトも良い。設定とかは色々すっ飛ばしてます。 2013.0430 編集
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