強く意思を固めた彼の眼差しが突然にふいっと気を変えたり、一瞬でも揺らいだりすることなど絶対に有り得ない。これは俺が一番よく知っていることだ。

め い れ い

そう言われちゃあ仕方がねえ。めいれい、命令。めいれいには、したがわなきゃ。





「っあんっ!あん!ひぅっ、いああ…ぅあっ!」

「はあぁ、ほんっと最高…いつまでも見てられるな……あ、記念にハメ撮りしちゃおっと」

温度のない部屋に響くのは無機質なシャッター音に共鳴して喘ぐ俺の卑猥な声と、俺の中を散々に荒らすバイブの機械的な低い唸り。
圧倒的なまでの非日常が耳に流れ込んで俺を支配する。パンフレットについてくる安っぽいポケットティッシュみたいなつまらない快感が俺の頭のなかをぐずぐずに、じゅくじゅくに溶かしていくのだ。
溶けた思考に突き刺さるのは、椅子にすわって高みの見物をしている彼の下品な嘲笑い声。

両手は手錠で拘束され、足はM字開脚の形で縛られた。彼に屈辱的な格好を舐めるように観察され、恥ずかしさで気が可笑しくなりそうだった。
容赦なく前立腺を抉り続ける玩具は完全に俺を狂わせ、もう何回射精したか分からないくらいに快楽を俺に与え続けている。
感情すら持たないこんな無機質な物体に喘がされてイかされるなんて人生最大の恥だ。
本当は、俺が望んでいたのはこんなんじゃない。もっとあいつに触って欲しい、愛の言葉が欲しい、イきすぎて精液が枯れるまで好きなだけ掘らせてやったっていい。だが、島田はそれを簡単に許すような奴ではなかった。
放置プレイと羞恥プレイの複合体みたいに悲惨で悲劇的なこの状況の中、彼は俺の叫びを、悲痛な表情を見て聞いてアブノーマルな快感を得ているのだろう。

「はぁっ、んああん!やらっ、あんっ!とって…あんっ、もっ…むりらからっ!」

「やーなこった。俺がそう簡単に承太郎くんに突っ込んでやるとでも思った?考えが甘い甘い。ほら、もう少し俺のために頑張って、ね?」

「ああんっ!…やらっ、そんな、あぅ!またいっちゃう…は、あっ、ああああんっ!!…………」

「♪〜〜」

脳裏に閃光が走る。乱暴すぎる快感に身体は対応しきれず、ドライでイってしまった。
また恥ずかしいところを見られた。次はどんな言葉で罵られるのだろうか、悔しいが彼の言葉に期待している自分がいた。朦朧とした意識の中ぼやけて見えたのは、鼻歌を歌いながらスマホでゲームをする島田の姿。

「ふっ、あっ、あ…てめっ…ふざっけんな…んんっ!………やっ、や、あ、やらっ!、おっきいっ、ふあっ!」

「あっ、ラッキー!レアアイテムゲット」

本格的に俺のことを放置し始めた島田はおまけにバイブの強さを最強にしやがった。
どれだけ喘いでもどれだけせがんでも彼は俺に見向きもしない。興味を失われることがこんなにも怖いだなんて。
もしかしたら一生このままなんじゃないかと思うと先の見えない底無しの恐怖が俺を襲った。

「ひぅ、ゆるしてっ、ああん!あっ……ゆるしてっ!あふ、んんっ、おねがっ…い、」

皮肉なことに、許しを乞うことしかできない俺の情けない喘ぎは余計に俺自信を追い込む結果となった。島田の代わりに返事をしたのはゲームの攻撃音。きっと彼にはもう何も届いていない。精神的苦痛で心がぐちゃぐちゃに丸められてしまいそうだった。両手を拘束している手錠はいくら暴れても簡単には取れなくて、つまりは俺に自由などないのだ。
頭がチカチカして気を失いそうになる。前立腺を叩き潰す勢いで振動する玩具は辛うじて残っていた僅かな自我を根こそぎ奪っていった。



10回目の絶頂。もうその後はなんだかよくわからなかった。
酷い台詞を吐きまくって、リミッターのはずれたロボットみたいに喘いでいた気がする。島田はサディストだから俺が苦しもうが泣き叫ぼうが全ては逆効果、彼だけの利益に過ぎない。


もう、目を閉じてしまおうか、このまま楽になってしまおうか。悪魔の囁きが頭に鳴り響く。
ここまで俺が意識を手放さずに耐えてきたのには理由があった。
もしかしたら島田はまだ俺のことを見捨ててはいないのかもしれない、あともう少ししたら彼は俺を後ろから抱き締めて何事もなかったような顔して優しくキスをしてくれるかもしれない、なんていう微かな望みが未だに捨てられなかったのだ。

でも、そんなことを考えるのはもうやめた。愚かな希望にすがるよりも、全てを諦め手放し、苦しみから解放される方がずっと利口だということにようやく気付いた。

もう限界だ。これ以上目を開けていられない。歪む視界で最後に見つけた彼はやっぱり俺のことなんか見ていなかった。諦めに似た笑みが溢れたと同時に目蓋を閉じる。さて、この後島田は俺をどうしてくれるだろうか。このまま放置して帰られたら最悪だな、なんて思い始めたところで意識がふっ、と途絶えた。




***




「………くん、………くん?……」

「起きてってば……もう、」

ごすっ

鈍い音がして頬にじわじわと痛みが広がる。反射的に目を開ければ俺に馬乗りになった島田が満面の笑みでこちらを見つめていた。思い付く限りで最悪の目覚めだ。手錠や、足を拘束していた紐などは全て外されており、下半身に忌まわしきバイブの振動は感じなかった。

「あ、ようやく起きた。もーびびったよ、放置プレイも飽きたしそろそろ掘ったげようかなーって思ったらさ、泡吹いて失神してんだもの!どうしようかと思ったよぉ」

「……ぁ、…ぅ……ごめん…なさい」

「え…あ、あ、全然!承太郎くんの声凄いエロかったしさ、もう俺大満足だよほんと!ね?……あの…泣かないで?」

俺を抱きしめながらフォローにもなっていないようなことを言い始める不器用な彼の体温は、溢れる涙の粒を余計に大きくさせた。

「っ……う、ふっ…おれのことっ、んく…すきっ?…」

「…うーん………きらい」

「……ぇ、うっ、やだ、…ふぅっ…」

「うそ。すき」

彼はその嘘を証明するかのように俺に口付けた。深く、深く。
二人で舌を絡め合って、足りない酸素なんて置き去りにして、頭の中をぐちゃぐちゃに溶かしたらもう、手遅れ。何も考えられない。

「んぷ、っはぁ…んっ、んふぅ…ぅんっ」

「……んっ、はぁ、承太郎くん、挿れるよ?」

「…ん。はやくっ………あんっ!あふ、や、おっきいっ!」

手加減という言葉を知らない彼はいきなり奥まで突っ込んできた。ジャストでイイところに当たったせいであられもない声が出てしまい、恥ずかしくて咄嗟に口元を塞ごうとすると彼の手がそれを制止した。

「すっごい可愛い声…ね、もっと聞かせて?」

「ぁ、んっ…んんぅ、………ふぁっ、ひゃあ!まって、あんっ!なんかっ、くりゅ…、やあ!イっ……あっ!!」

こりこりとした前立腺をピンポイントで何度も狙って突かれる。身体がガクガクと震え、壮絶な快感が全身を駆け巡った。確かにイったはずなのに、いきりたったそこからは何も出ていない。

「……はっ、すっご…ドライでイくなんて相当なヤリマンくんだねっ…家でも自分でお尻いじってんの?」

「やっ、ちげ、ぅあ…ちげぇからぁっ…」

思わず羞恥でカッと顔が熱くなった。彼は俺を恥ずかしがらせるようなことを言うのが大好きで、情事の時はいつもこんなことを言ってくる。そのたんびに耳まで真っ赤になる俺を見るのが楽しいらしい。

「だってほら、承太郎くんのここ俺のこときゅんきゅんって締め付けてるよ?」

「ぁ、やぁ……ん」

恥ずかしさと興奮でうっすらと涙が滲んできた。少し動かされただけでも女みてえな声が出てしまう。
火照った顔が彼の冷たくて細い手で包み込まれ、数秒間目が合うと彼はこんなことを言う。

「美味しそう」

「…?あ、…ぃた……んっ」

赤く染まった俺の頬に舌が伸ばされたかと思えば、ちり、と鋭利な痛みが走った。そこから垂れ始めたのは生暖かくて紅い液体。

「…ぅ、あっ…あ"、」

「んっ、はぁ…どうしてそんな可愛いかな承太郎くんは…」

頬から流れる赤い液体さえ、彼から与えられたものならなんでも快感へと変わった。
我慢できない、といった表情になって律動を再開させた彼はただ貪欲に快楽を求めて動いていた。

「っあ、あぅ、いやらっ、はぁん…はげしっ、あっ!」

「っは…承太郎くんっ、出すよ?…溢さないで全部受け止めて…ねっ……」

「ひ、あっ、ああぅあっ!…んゃっ……は、あ…」

勢いよく流れ込んできた彼のもので腹のなかがゆっくりと満たされていく。形容し難い気持ちよさが甘く広がり、無意識に脚がぎゅっと閉じてしまう。

「よいしょっ、と…承太郎くん、一回抜いてあげるからあし、開いて」

「……ん。」

彼は一度ベッドから降りて、バッグの中から取り出した天然水をごくごくと旨そうに飲み干してからもう一度ベッドに戻ってきた。あまりにも日常的で自然なその行動が微妙に頭に来た。

「承太郎くん、うつ伏せになって?」

「やだ」

「もっかい挿れるよ?」

「やだ」

俺にだってプライドがある。やられっぱなしでこのまま終わる訳にはいかない。一度くらいはこいつの前で堂々と主導権を握ってみたいと思っていた。

「舐めろ」

「んなっ…………ふふっ、なに、急に強気になっちゃってんの…」

「っ…黙れ、いいからしゃぶれよ」

「おぉ怖い怖い…ま、こうゆう承太郎くんも嫌いじゃないけどね…」

動揺した島田が見れただけでも収穫としよう。彼は限界まで立ち上がった俺の雄を見てにやにやと笑っている。気持ちわりいったらありゃあしねえ。

「チッ…はやくしろ…」

「…ふふ、まーいいや。今日だけ特別だよ?俺のテクでひんひん言わせてあげる」

そう言って俺のものをくわえた島田。
暖かい彼の口の中は今まで体験したことのない未知の感覚で、正直思っていたよりも全然気持ちよかった。油断してると変な声が漏れてしまいそうになる。

「………ん、ふ、ぁ」

ちゅ、ちゅぱ、ちゅくちゅぱ
卑猥な音をたてながら俺のものを頬張る彼は、俺に酷い格好をさせて、涙が出るほどめちゃくちゃにしてくるいつもの彼とはまるで別人みたいで俺への支配心が一時的に消えた彼はとても従順な犬のように見えた。そんな彼の姿を見ていると何故か最高に興奮した。

「は、ぁ…はっ、はぁん…ぅん…」

そして、彼にフェラされて素直に感じきって上ずった声を出す俺の姿も、島田からみたら「最高に興奮」するのだろう。
彼のテクは凄かった。
フェラされる事自体初めてだったが、熱い舌でちろちろと先端を舐められたり、きゅうっ、と亀頭を吸われるとどうにかなりそうなほど気持ちよくて、ちょっと強めの刺激を与えられるだけで高く甘えた喘ぎが漏れ出てしまう。その度島田はくわえながら俺の事を笑って見てくるので、余計に恥ずかしくなって結局は彼のされるがままになっていた。

「っあ!…んゅ、それっ、やめっ…あ!…イくっ……ふあぁっ!…」

きゅううっと絞りとるように吸われて、我慢ならずにまたもや達してしまった。
よくわからないけどいつもよりすごくきもちよくて、ふわふわとした気分だった。

「…ぷはぁっ……ごちそうさまでした……てか、承太郎くんすッごいトロ顔!どこで覚えてきたのそんなエっロい表情」

「………黙れ」

「…なに、そんなに気持ちよかった?俺のフェラ」

何がなんでも認めたくねえ。下唇を噛んで睨み付けてやると、彼は余計にニヤニヤと笑い出した。心底腹の立つ野郎だ。

「てめえ……何がおかしい」

「いやあ…ね、俺承太郎くんの考えてること全部分かっちゃうからさぁ」

「……馬鹿にしてんのか」

「ふふふ…俺さ、承太郎くんに主導権握らすつもりなんてこの先一切ないから」

「…!」

馬鹿にしてたわけじゃないらしい。彼は本当に俺の考えていたことが分かっていたのだ。

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