一話目
鬼はヒト ヒトは鬼
鬼はヒトが作るもの
ヒトのココロが作るもの――
「ヒトの闇に巣食うもの。ココロの闇に、生まれるもの」
「乾サン、何か言いましたか?」
「いいえ、何も」
「にしても、隊長。どこ行っちゃったんすかねー」
部下に仕事を押し付けて自分は休みを取る。なんて事は多々あったが、今まで無断欠勤などしたことの無い人が何も言わずに姿を眩ましていた。
――やっぱり、捕らえられたという妖喰いの鬼は、
――鬼は、
鬼は人の心が作るモノ――
心の闇が作るモノ――
つつ、と窓の外を面妖な蟲が飛んでいく。
――あんなものはべらせておいて、鬼はどっちよ
「っと。そろそろ巡回行きましょうか、乾サン」
「……私はパス」
「ええっ!?」
「乾が外回りに行きたがらないだと!!」
「こりゃー雪でも降るかな」
「聞こえてますよ。他の仕事は私が片付けておきますから。ほら、行ったいった」
からかってくる仲間を一睨みで制して、手をひらひらと振った。
「事務仕事を率先するなんて、雪じゃなくて嵐になるな」
「やかましい!」
ドンっと、つい机を拳で叩いてしまった。
「あ、しまった」と気付いても時既に遅し
上司の不在で溜まった書類が、雪崩のように滑り落ちた。
同僚達は「がんばれよー」と言ってぞろぞろと詰所を出ていく。
朱鳥は、それを苦笑いで見送った。
ついでに、最後の一人に「帰りに何か冷たいもん買ってこい〜」と念も送る。
同僚達が囃したように、屋内にいては息がつまるとばかりに、夏だろうが冬だろうが普段は外回りの仕事を好む朱鳥だが、最近は気が乗らない。
「そりゃあ、だってねえ」
――こっちまで捕まりたくないもの
蒸し暑くなって窓を開け放つと、舞い込んできたのは常人にはわからぬ妖の匂い。
「帝都も物騒になったわね……」
伸びを一つして、皆が帰るまでには終わらせてしまおうと、窓を閉めて席についた。