夢 | ナノ
私は朔良に依存している。



ニコチンは肺に染み付き、アルコールは肝臓を壊し、シンナーは脳みそを溶かす。
他人がそんなくだらないものに魅せられる中、私が依存したのは朔良だった。
たまにふと思うのだ、朔良と私、一緒にいたら互いに悪影響なのじゃないか、と。
それがわかる位の理性は持ち合わせてある。





そんなことを私が言うと朔良は眉を潜め、ふたりがけのソファーの隣に座っている私の方を向いた。





「……そんなこと考えてたの?」


こくりと頷いた。
くだらないという風に朔良は本に視線を戻した。
そんなにくだらないことなのだろうか。
こちらは至って真面目なのだ。




「じゃあ、なまえは僕と一緒にいたくないの?」
「頭イカれた?」


本気でそう思った。

だってそうじゃないのか、私から朔良と離れるなんて、それ相当なことがないと無理だ。
この男はそんなこともわからないのかとため息を着きたくなる。




「でも、そういう風に聞こえるし」

「それは朔良の勝手な考えでしょ」




辛辣だと自分でも思う。よく喧嘩にならないモノだ。
私と朔良は喧嘩したことはない。10年近くべったり一緒にいて、一度もだ。口喧嘩もなければ、殴り合いもない。
でもこうやって相手を揶揄するのは日常茶飯事だ。
勿論、朔良も私のことをボロクソにいう。

でも言い返しはしない、何故か黙って相手に言わせている。
そして片方は揶揄を出し尽くすとだいたいもう片方に寄りかかる。
そのまま、たまにキスをして何事もなかったように会話を続けるのだ。




「ワケわかんない、どうしてそんなこというの」
「うん」

「あんた本当馬鹿で阿呆だよ」

「そうだね、」

「どれだけ揶揄してもたんない、ねえ助けてよ朔良。」



朔良は読んでいた本を栞も挟まず投げ捨て、私を抱き締めた。
感嘆もときめきも何も起こらなかった。



「朔良、私のこと好き?」

「……くだらない」



いいじゃん、答えてよ。とおねだり。大分気持ち悪い。
私のことが好き?こんな女らしいこと、初めて聞いた。これじゃあ私たち恋人みたいじゃないか。
絶対にそんなもんにはならないと、わかっているけれど。





「人間として生きていくためにお前が必要。」

「好きってこと?」

「そんなレベルの話じゃない」


女として、私は朔良に好かれたいのだろうか。
そう考える自分が酷く低俗のようで吐き気がした。



「酸素が必要なようにお前が必要」



朔良は私の気持ちもゆっくりと、そして上手に表現してくれた。
私も朔良と一緒で息なんてできない。




「朔良と一緒にずっといる」

「いつかそれぞれ好きなヤツできるかもよ」

「……そだね」



泣きそうになった。
朔良が私以外の女の柔い体を抱きしめて、キスをするなんて考えただけで嗚咽が漏れそうになる。



「……なんで泣いてんの」


もしかして、いつか朔良を失うのだろう。
そんな時、私はどうするのだろうか。
溜飲と、嗚咽を飲み込んだ。
私と朔良の関係は明確に言葉で表すことなどできるのだろうか。
できないほどに、純粋だから。





「ごめん」

「馬鹿、あほ、」


抱きしめられる。
ずっと二人でいようね。
そんなことを言われた気がしてまた涙が溢れた。










最後は迷ってカットしました。
朔良も依存、夢主も依存。


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