夢 | ナノ
「……なに言ってんの」

「え、だから朔良が天のこと好き……」

「馬鹿じゃないの」



週の終わりの土曜日。
平凡すぎる昼下がりで、変わった事といったら、外には真っ白な雪がちらちら降っていたことぐらいだ。



……で



「どこをどう見たら、そういう風な結論になるんだよ!」

「えぇ!?だって仲良さそうだし!」

「お前のその目は節穴かガラス玉か!?」


これ以上こいつに怒鳴ってたら血圧上がって死ぬような気がした。
思わずため息が出る。


「なんで僕が雑用係を好きにならなきゃいけないんだよ」

「だって最近天、すっごい綺麗になったから、変な気起こしても仕方ないかなあ……って思って。」

「誤解を招くような発言をするな!」


……でもなんとなく、わかる気がした。たしかにあいつは少し綺麗になったような気がする。



「……だとしても、そうしたのは十雅だし。」

「そうだよね。そんな子に惚れてもねしょうがないしね」


やっと理解したなまえはぼけーとして何かを考え始めた。
でもここは階段だ。


「お前落ちるぞ」

「あうああいああああああーーーー!」


本当にタイミングを見計らったようにでがくりと足を踏み外した。ほんと僕が言った瞬間に。反射的に手が出てなまえを受け止めた。



「お前、言ったそばから!」


力いっぱい怒鳴ると佳奈は青い顔で空中に浮いている足をバタバタ動かした。そうだ、彼女を支えるのは僕の腕だけだった。


「朔良朔良!おちっ、落ちる落ちるっ」

「あっ、ごめん。」


素直に謝ってなまえを下ろすと明らかに安堵の表情になった。


「怖かったーっ」

「……なまえ、また落ちるぞ」

「こ、今度は気を付けるから平気平気っ」


なまえは少し踏み外しそうになりながらも今度は何事もなく階段を降りきった。
そしてあいつは今現在ドヤ顔でこっちを見ている。


「階段降り終わったぞ!」

「そんなのでエバるなっ!」


ドヤ顔が果てしなくウザい。
なまえといると絶対に死ぬ、高血圧で。
あいつは僕に早死にさせたいんだろうか。



「朔良。」

いきなりこっちを振り向いたなまえはやけに真面目な声で僕の名前を呼んだ。


「……なに」
さっきより少し固い彼女の声に階段を降りる足が止まる。
柔らかなで風変わりな彼女からは聞いたことのない声色で、何だか心臓の音が少し乱れた気がした。




「天のこと好き?」


何分か前に聞いた質問と同じなはずだが、かたい声のせいで全く違う質問のように聞こえた。


「馬鹿じゃないの」


不純の無い返事をした。
そして勢いよく顔を上げた彼女は甘さの溶けきったいつも通りの笑顔を浮かべていた。



「……なんでまた聞いたの?」

「朔良はわからなくていーの!」


そして彼女は暗い教会の廊下をゆっくりと歩きだした。
その瞬間酷く小さな声が聞こえた気がした。



“朔良の不得意分野なんでしょー”


鼓動がはやまる。
なんだかその小さな一言でわかった気がした。
わからないなんて、僕はなまえにどのくらい鈍感だと見くびられてるんだろう。
とりあえず暗い廊下に消えた彼女をひっつかまえる為に階段を降りる足を早めた。



end


タイトル 空想アリア様
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