植物人間になってしまった。と言っても寝たきりで意識のない人間ではなくて、読んで字の如く植物人間なのだ。私の体から花が生えてくる。何かの拍子にパッと咲いて、放っておくとそのうち消える。
 原因は明白、これは私のスタンドだ。お酒の入った勢いでジャイロの眼球を私に移したらこうなった。見た目が華やかだから最初は面白がっていられたけど、状況はジョニィの一言で一変した。
「その花、名前の心境を表してないか?」
 手元にはどこで手に入れたのか“花言葉百科”のファンシーな表紙が覗いていて、ついでに彼は私の米神に咲いた黄色い花から「あ、驚いてる」と私の心まで覗いてみせたのだ。

 ホテルの自室に逃げ込んでもう一時間たつ。そろそろ出て来いよ、なんて声がドア越しに聞こえて、むっときた私は手首に咲いた花をドア下の隙間から外へ押し出した。しばらくして辞典でその花のページを見つけたらしいジャイロが「傷つく心……」と呟く。その通り。
「さっきのこと怒ってんのか?」
「……当たり前でしょ」
 言葉にも声にもできないような痛切な思いになればなるほど、鮮やかに派手についでに大量に咲いてくれる。その花言葉を調べられてしまえば、私の秘め事が全て暴露されたも同然だ。そしてジャイロは見事にそれをやってくれた。
 あなたしか見えない、あなたに見とれています、あなたは魅力的、そして――
「……ジョニィを見てたときに咲いたライラックだけど、『友情』と『初恋』とどっちなわけ?」
「ばっ……友情に決まってるでしょ!」
 かっとなってドアを開けると、突然ジャイロの胸元に引き寄せられた。途端に私の耳元から手首から、そこかしこから赤い花が飛び出してくる。
「……それで、オレといるときに咲くそれは……」
「み、見ないでよ!」
 花は正直で、正直すぎて残酷だ。満開の薔薇は嫌味なほどに瑞々しい。かあっと憎らしさがこみ上げて、手当たり次第に毟って掻き乱して花弁を散らす。「おい!」暴れ回る私の腕をジャイロが捕らえてきつく握った。
「これがオレへの気持ちなんだったら、オレが受け取るべきだろ? オレのもんを散らすなよ」
「……知らない、こんなの、知らないもん……」
「なあ、名前」
 貰ってもいいか? ジャイロが私の手を、その中で握りつぶされた薔薇の花弁と一緒にそっと持ち上げて、指の付け根に唇を落とす。恥ずかしすぎて私は声も出なかったけれど、代わりにフロックスの花が咲いて“イエス”と答えた。



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