「鏡よカガミ、世界でいっちば〜んのカワイコちゃんはだあれぇ?」

 アバッキオがブチャラティに頼まれて、嫌々ながら(ここがポイントだ)その女の家に向かうと、既に彼女は鏡台の前にだらしなく座ってペチャクチャとお喋りを楽しんでいるところだった。
「え? ざんねーん。正解は、名前ちゃんでしたあ!」
「名前」
いつも女は意味の判らない挨拶を寄越す。「あ、セイウチちゃんだ! ラ・ヨダソウ・スティアーナ!」 本当は、声をかけたくもなかったし近付きたくもなかったし、できることなら顔も見たくなかったけれど。
「またおまえはどこから……」 女の青白い腕を見ると、真新しい注射の痕が赤くぷっくり目立っていた。注射器や麻薬など、取り上げたはずなのに。
「やめてよぅ、ドヴァ帝国からエッグマンなんて来てないよお。ねえ知ってる? 心臓はアルミホイルで包まれてるの。アルミよ? アルミナッ、ナナナ、ホイールルルルルアルミアルミ、ルミルミルルルル」
「やめろ」
アバッキオがスタンドで現場を再生せずとも、女が麻薬に手を出したことは明白だった。彼は常々、こんな脳みそのドロドロに融け切った女など捨ててしまえば良いのにと思っている。それでもブチャラティが彼女を飼い続けることを選択したのは「注射器と麻薬」同様、女を含む護衛チームに必要なブツが、彼女のスタンドによって(どういう経路か知らないが)都合よくこの部屋に集まってしまうからで。
「よく垂れてこないもんだな」
「なにがー?」
彼は彼女の頭に手を乗せると、ぐわんぐわんと乱暴に振り回した。女は「んふふふふ」と楽しそうに笑っている。
「脳みそだよ」
「あー、あれねー。フレークにかけて火曜日をTシャツにするとイイよ!」
何を言っているのやらとアバッキオが女の顔に視線を落とすと、彼女の黒目がゆっくり、左右それぞれ目尻に向かっていくところだった。
「フォルオルのダイアモンドが見えるわ……これじゃあルーシーみたいにお空に吹っ飛んじゃう」
「そりゃあ大変だ」 軽く名前のこめかみを叩けば、いつものようにゆっくりと目玉が元に戻ってくる。
「セイウチちゃんのせいだからね」
何が、とアバッキオが尋ねる前に。女は「警官が整列すると、ルーシーみたいに空を飛ぶのよ」と例の「んふふ」笑いをしながら言った。自分の頭では物を考えられなくなった名前が、アバッキオに投げキスをする。

 「ハロー、グッバイ! 鏡の世界で会いましょう!」



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