「ギアッチョ、だーいすき!」
「俺も好きだぜ!」
「私のほうが好きだよ」
「聞き捨てならねェな……俺の方が好きだ!」
「私!」
「俺!」

 互いの瞳が鈍く輝いたのが分かる。戦いの火蓋は切って落とされたのだ。
 抱き合っていた体は磁石のように反発しあい、ソファを挟んで睨み合う。手始めには腕の鈍り具合を確かめるために、ナイフを一本。やはり半年のブランクは埋められず、ギアッチョの巻き髪を二三本散らしてしまう。そんなことを解析している間にも、再び距離を縮めてきた恋人は、躊躇いなく私の頭を蹴り上げようとする。勿論素直に靴にキスをしてやる気はないので、状態を捻らせ避け、その後の追撃のローキックも足でいなす。
 じんと痛む足に舌打ちをして、今度は眉間を狙ってナイフを投げる。一投で一等を狙えるとは思っていない。二、三、四、と狙いを定める。ギアッチョはそれを撃ち落とさず、律儀に一つ一つ避けては、一撃一撃と反撃をしてきた。このままでは埒があかない。私は軽く床を蹴って、次の攻撃に体を傾けていたギアッチョの軸足の膝に飛び乗る。そこから肩に手を掛け、逆の手で握りこんだナイフで顔を刻もうと、するがまあうまくいくはずもなく……。間髪をいれず顎を狙ったヘッドバンキングを避けるために後ろへ飛ぶ。餞別代わりにまたナイフを投げる。
 着地するのと同時に、固められた拳が頬を切りそうになった。咄嗟に身を屈めると、その隙を逃さず、シャツの襟首を掴まれる。そのまま腕に手をかけられ、
 床に叩きつけられるであろう衝撃を目をきつく瞑って待っていると―― 抱きしめる腕の強さに、胸が苦しくなる。

「ほら見ろ! 好きすぎてこんだけ競り合っても傷一つつけらんねェ」

 ああ、なんて可愛い人!
 はふと息も絶え絶え、私はナイフの軌跡を指で追った。その先の壁には何本ものナイフが、ハート型に並んでいる。
 ギアッチョはそれに目を真ん丸にしてから、言葉を失ったように腕の力を強めた。

「愛の炎で火傷しちゃったみたい……」
「舐めときゃ、治るだろ」

 そうして、甘い言葉ばかり嘯きすぎて砂糖まみれになった唇を、私たちは妙に神妙な顔で重ねあわせたのだった。
 ただラブるにも面倒な過程が必要なので、私はいつまでも健康でいようと思う。

 ラブとラブる!



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