一月十五日、昼。中途半端に眠ったせいで余計に眠くなったらしい。欠伸を噛み殺しながら飛行機を降り、タクシーを拾ってホテルへ。値段交渉はしない。ドライバーの言い値を払うなんて、ジョースターさんやアブドゥルが知ったら「わざわざボッタくられるなんて!」と卒倒しそうだ。 夕方、明日に備えて早々に就寝。 一月十六日、朝。ホテルから徒歩でカイロ・タワーへ。午前中は丸々そこの展望台でカイロの街並みを見下ろして過ごす。砂っぽい色の建物で埋め尽くされた地上があの死闘の舞台だったなんて今も実感が沸かない。現実味が無くて、単なる外国の景色って感じだ。 正午、街中の屋台で昼食を取る。怪しげな食べ物ばかりで初めはハズレを引くこともあったけど、何度も来れば流石に何がおいしいか大体分かってくる。名前はお気に入りのスィミットというドーナツ型のパンを買った。 宵のうち、カイロの街は一気に様相を変える。家族旅行でカイロ・タワーから見下ろしたとき、こんなに綺麗な街だったのかと驚いた。ナイル川沿いの煌びやかな明かりが水面に映りこんでいるところなんて、思わず溜息が漏れる。 その幻想的な街中を、名前は毎回違うルートで歩き回る。あのとき走った道を探しているんだろう。敵を追うのに精一杯で、誰も覚えていない道を。 一月十七日、未明。狭い路地裏を通って、名前は時計塔下の廃墟に侵入する。非常階段から屋上へ上がり、いつになったら取り壊されるのだろう、ビニールシートを被せられたままの塔の前に座り込む。ラベルの剥げたチェリーの瓶には、乾いた土が詰まってる。僕の家の庭のだ。そこに線香を一本立てて、ライターを瓶の縁に軽く叩いてキンと音を鳴らす。 「これ、承太郎の代わり」 名前は煙草に火を点けると、それも土に刺した。それにジョースターさんとポルナレフの分として線香を二本増やして、胡坐の上で顎に肘をつき、ぼんやりと夢想に耽る。 正直、僕はこの時間が苦手だ。名前の行動や表情なら視えても、頭の中までは分からない。 何、考えてるのかな。 「……今年で最後にするよ」 君、去年もそう言ってたの、覚えてるかい? 名前も大概だ。何もここまで来なくたって、他の皆みたいに普段の生活の中で時々悼んでくれればそれでいいのに。 来年は来ないでくれよ。聞こえないだろうけど、一応言う。 君がこうして来てしまうから。だから僕も残っていてしまうのだと、自分の期待を棚上げて。全てを君のせいにして。 カイロの夜 |