転校生のミキタカくんはちょっと変。言われたことは何でも信じちゃうし、明らかな嘘だって真に受けちゃう。だからつまり、こういうこともできちゃうわけで。
「ミキタカくん、私“ハグしてもらわないと死んじゃう病”にかかったみたい……」
「えっ! 名前さん、大丈夫ですか? どんな病気なんですか?」
「あのね、その名の通りハグしてもらわないと死んじゃうの……どうしよう、私まだ死にたくないよ……」
「大変じゃないですか! わたしでよかったらお力になります!」
 しめしめ、今回も見事に信じておる。
「本当? ありがとうミキタカくん……」
「じゃあ早速失礼しますね」
「えっちょ、まだ心の準備が」
 ぎゅう。ミキタカくんの長い両腕が私の体を抱きしめた。身長差が結構あるから予定じゃ私が爪先立ちになって距離を埋めるつもりだったけど、この様子だと彼が少し屈んでくれてるみたいだ。
 やっぱりミキタカくんは優しいなあなんて暢気にしてたら、ふとした拍子に彼が後ろに撫で付けている髪がはらりと一房落ちて、私の頬を撫ぜた。
 途端に頭が痺れて、みるみるうちに顔に血が上ってくるのが分かる。急に心臓の音が大きくなる。ミキタカくんが少し動くたび、学ランがしゅっと擦れる音がして、脳が溶かされていく。
「……名前さん? なんだか熱いです……この病気は発熱を伴うのですか?」
 どうしよう、何も声に出せない。喉の奥が腫れてるみたい。
 言葉が詰まって、出てこない。
「名前さん?……名前さん! 死なないでください!」
「……えっ、ちょっ……」
 途端に抱きしめる腕の強さが増していって、私の体を絞め殺すのかってくらい締め付け始めた。言葉に詰まるっていうか、これは息も詰まる……っていうか、正直呼吸が出来ない。苦しい……
「み、みきたかくん……くるじい……息できない……!」
「あっ!」
 どうなることかと思ったけど、ミキタカくんは私が死ぬ前に腕を解いてくれた。名残惜しいとか思う前にまず思いっきり肺に空気を吸い込む。
「す、すみません名前さん……わたし、名前さんが死んでしまったらどうしようと……だって、わたし……」
「えっ、ミキタカくん!?」
 彼の透き通った瞳からはらはらと涙が零れ落ちた。私は慌ててハンカチを出して頬に押し当てる。どうしよう、ミキタカくんの純真な心を弄んだからだ!
 でも、ちょっと待って……
「わたし、名前さんのことが……」
 ミキタカくん、私のことが、どうしたの?
 後でちゃんと謝るから、お願い、

その先を聞かせて



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