恋人が宇宙人だった。
 100%完全に信じているというわけではないけれど、一人くらい身の回りに宇宙人がいたっていいと思う。それがたまたま横に並んでつり革に捕まるこいつってだけで、それがたまたま恋人だったというだけだ。
 話は変わって、最近よく話題に上がるのは同性同士の所謂"お付き合い"の仕方だ。いや、同性同士どころか異性との付き合い方もわからないおれたちは―― 愛の迷える子羊なう。
 電車に揺られながらも、ミキタカのカップル観察に余念はない。
「ごろにゃ〜ん」
「にゃんにゃんにゃ〜ん」
 隣のつり革に手をかけた男に、その彼女がじゃれつく。いままでは暑苦しいなと舌打ちを(勿論心の中だけに留めて)するくらいだったが、最近では哀れみさえ覚える。
「ングルァワ〜ニャ」
 ミキタカは真顔で、発情期の猫の声帯模写をした。
「……ヴャ」
 おれも出来るだけ短く、威嚇する猫の真似をして返した。
 誂われていると思ったカップルはこちらをきつく睨んだが、おれはなるべく目を伏せて気付かないふり。ごめんなさい、こいつも一生懸命なんです。
「も〜ボタン閉じろよォ。他の男にお前の肌が見られるなんて、おれ我慢できね〜〜」
「も〜誰も見てないよォ〜〜」
 今度はさっきとは別のカップルが、扉の前でそんなやり取りをした。女の白いシャツのボタンは、第二どころか第三まで開いていた。
 ミキタカはじっとソレを眺めてから、おれのほうに向き直る。
「名前さん。もう人生の幕を閉じてください。他の人があなたを見るなんて我慢できません」
 怖い!
「あれあれあれ〜?もしかして、髪切ったーかっわうぃー」
「キャン!気付いてくれたの〜ォ。ウレしーッ!愛されってるカンジー!」
 間髪入れずに、おれたちの前に座るカップルが指を絡め始める。よくもこの空気のなかでいちゃつけるものだ。
 ミキタカはおれの横顔に澄んだ瞳で熱い視線を送って、こちらの顎をぐいと掴んだ。
「あれ、名前さん。睫毛伸びました?0.15mmほど」
 知りません!と切り捨てたくなるが―― さぁどうぞと言わんばかりに、期待をした表情。これは言わなきゃいけませんか、そうですか。
 手間のかかる宇宙人、本当に宇宙人?なんにせよ可愛い人。時々、いや、大分面倒だけれど。
「きゃー、愛されてる……って、あれ?お前ってちゃんと人の顔覚えられんじゃん」
「名前だけだよ」
 恋人の宇宙人は時々、言葉よりも息がつまる魔法をかけてくる。



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