前略 花京院典明様

 こうして手紙を書くのは初めてですね。こんにちは。小学生の頃、何回か同じクラスになった名前です。僕は君に、花京院くんに「ありがとう」と伝えたくて筆を執りました。ありがとう。本当に、ありがとう。
 花京院くんは「何のことだか分からない」と言うでしょうから、簡単に説明させて下さい。小学生の頃、僕は常にクラスみんなの人気者というポジションにいました。(偉そうなことを言う奴だ、なんて思わないで下さい) 塾に行って勉強もしましたし、体の大きな友達にドッジボールの極意を教えてもらったりしてましたし、合唱コンクールでも積極的に指揮者に立候補したりして、「名前くんは頼りになるなぁ」と思われることに心血を注いでいたんです。その甲斐あって、母に買ってもらったアドレス帳はすぐにいっぱいになりました。クラスや学年など、関係無く。
 そのアドレス帳、覚えていますか? 君が僕に「落としていたよ」と届けてくれたものです。あの時、花京院くんは凄く静かな目をしていました。いつものツンと澄ましたような、世の中全てに興味が持てないような、冷たくて濁ったような目じゃあなく。
 僕はその目に見つめられて、とても恥ずかしくなったんです。だってそうでしょう? あのアドレス帳を失くしたことすら、その時点で僕は気付いてなかったんですから。上っ面だけの友達が、僕の家に電話をかけて来ると思いますか? 手紙を書いてくれると思いますか? 僕が、誰かにそれをすると思いますか? 花京院くんの静かな目は「君には、真に気持ちのかよい合う人なんて一人もいないんだね」と訴えているような気がしました。だから僕は、恥ずかしくて君にお礼も言えなかったんです。ごめんなさい。僕は臆病な人間で、誰かに拒絶されるのが凄く怖かった。常に上辺だけでも他人と触れ合っていないと、自分が消えてしまいそうな不安を覚える、そんな子供だったんです。
 でも花京院くんは、独りでも「自分だけの、揺らがない心」を持てるような、強い人だった。僕は手帳の件があってから、一方的に君に憧れていました。君よりだいぶ時間がかかったけど、ようやく僕は自分だけの飾らない素直な心を手に入れることができました。真に気持ちをかよい合わせられる友人も見付けました。生きることが、楽しくなったんです。
 花京院くん、ありがとう。僕は君のことが大好きでした。直接「ありがとう」と言えなくて、ごめんなさい。

               草々



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