永久に凍りつきそうな夜だった。

 目抜き通りの真ん中に設置された大きなクリスマスツリーは、高さが15mもあるらしい。モミの木の鮮やかな緑と、赤色の丸いオーナメント。紺青の空に輝く電飾は色とりどりで、街はクリスマス一色になっている。
 待ち合わせ場所には待ち人は来ない。当然、約束もしていない。

「名前さん」
「うわっ!!」

 前触れなく飛び込んできたサイケデリックカラーに、私はひっくり返りそうになった。ぱっと腰を支えてくれたのが目の前にいる人の腕だと気付いたとき、一気に頬に熱が集まるのが分かる。
 暫く動けずにいる私から視線を外さず、不思議な雰囲気の少年は同じく動こうとしない。

「こんばんは、名前さん」
「こんばんは、ミキタカくん……」

 体勢を変えないままの挨拶は滑稽だった。
 ゆっくり地面に足をつけた瞬間に、薄いダッフルコートが通す寒気すら忘れる。背に彼の腕が回っていたのだと思うと体温が上がって、とても顔を上げられなかった。そこからは見慣れた学生服から髪先と、素手の白い手が見える。
 どきどきと鼓動が速まる。
 彼の黒い服が頭の中で、どんどんと赤い衣装に変わっていく。

「ミキタカくんは、実はサンタ?」
「ぼくがですか?」
「サンタは宇宙人なんだって、聞いたことあるわ」

 顔をあげた先の光景に目が眩む。色の薄い瞳に、イルミネーションの光が映り込んでキラキラと光っているのが、堪らなく神秘的に見えた。一度見れば吸い込まれるように、視線を外せない。宇宙というブラックボックスが彼の故郷だっていうなら、それはきっと真理だと思うほど。

「サンタクロースは、世界の良い子の手紙を見て、プレゼントを渡しにくるそうです」

 彼が鞄から取り出した封筒には、見覚えしかなかった。
 喉の奥が緊張でひきつり、コートの裾を力いっぱい握りしめる。中の便箋に鉛筆が走った回数なんてもう数えきれない。何度も何度も消して、一晩中悩んでできたその手紙は、名前も美しい文章も並んでいない。
 たった4文字「好きです」と、それだけで。

「どうして……?」
「宇宙人は、サンタクロースだからです」

 得意げな彼の手で握りしめられて、くしゃくしゃ丸められたそれを彼はクチに運んで、ぺろりと食べてしまった!
 湛えていた涙が驚きで頬に落ちる。ミキタカくんは無邪気ににっこり笑ってみせて、指先で雫を拭いながらすごいでしょうと言った。すごいね、と私も笑った。

 永久に凍りつかせたい夜だった。

千年紀末の雪



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