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「聞いてください
私は今、乙女にも関わらず
一人の男と同じ屋根の下で暮らすになったんです
おお!怖い!
乙女の純情が奪われてしまいそう!」

「名前、誰に話しているんだい
それと"乙女"という言葉を辞書でひいておいで」


もう日が暮れてきて、リビングに強い西日が差し込む
とても自然にキッチンに立って晩ご飯を作っている半兵衛に
ちょっとからかうつもりで言っていたら
いつものように、にこっり笑顔で返されてしまった


「それに、名前に手を出すつもりは無い」


は?


「え?今なんて言った?」
「僕は君に、男として決していかがわしい事はしない」


ちょっ
ちょっと待ってよ
そんな重要なことさらっと発表しないでもらえるかな!

え、あ
いやいやいやいや
別にいかがわしい事を少なからず期待してたとか言わないよ
言わないけど…どういうこと!!


トントントントン


私はびっくりして言葉だってでないのに
半兵衛は何事もないように軽快なリズムで包丁で野菜を刻んでいく


「当たり前だろう?まず君は僕の生徒なのだから」
「………で、でもでも、私は半兵衛の彼女でしょ?」
「あぁ、そうだね」


トントントントン


「学校では生徒だけど、家で彼女なら」


手を出してもいいじゃない
って
言おうとした口が硬直した
そんなこと言ったらいかにも何かして欲しいみたい

一気に顔が熱くなって
赤くなった頬を悟られたくなくて俯くと
今まで途切れることのなかった包丁の音が止んだ


「彼女なら……の、続きは聞かせてくれないのかい?」


タオルで拭いたけど、少し湿った指が
私の頬に絡みつく


「や…やだ」
「僕が言っているのは大人としての言葉だ、けれど
あんまり君が可愛いことを言うと」


顔、
見れない
見ないで
すごく恥ずかしいから

額に、ちゅっと音をたててキスが落ちてきた


「本気で名前を食べてしまうよ」


どうしていいのか分からなくて
ほんの数分前の自分を呪いながらそっと半兵衛の顔を覗いてみると
いつもの私を高揚させる綺麗な笑顔なのに
少しだけ切なく見えたのは気のせい?





「なんてね」












今日のご飯は肉じゃが
(うわ、予想以上に美味しい)
(それは良かった)



(もどかしい気持ち、君に分かるかな?)
















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