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――――ピリリ
ピリリリリリ――ピリリリリリ


「ん?」
「あ、お母さんからだ」


二人の会話を破った携帯の着信音
名前は携帯を開き、耳にあてる


「もしもしー、何?」
『もしもし、名前ちゃんまだ学校?』
「うん、そうだけど」
『今日ね、お父さんも私も早く帰れるから早く帰ってきて。年末の話もあるしね』
「年末の?」
『えぇ、今年はパリで年を越すのよ』


のんびりとしたお母さんの言葉に耳を傾けていると
予想もできない言葉が飛び込んできた


「はっ!?なんでいきなりパリなの!!」
『名前ちゃん…お母さん耳痛い……』
「ごっごめん」
『お父さんの知り合いの方がパリに出張に行ってね、
すごくいい所だから休みの取れる年末にでも遊びにおいでって言ってくれたのよ』
「で、年末に行く…の?」
『えぇ、エッフェル塔がすごく綺麗なんですって』


年末にパリなんか行ったらずっと半兵衛に会えないし初詣も行けない
やだな
やだよ

ちらりと半兵衛の方を向けば
何かを察した様に頭を撫でてくれた


「でも私…もう初詣に行く約束しちゃった」
『あらそうなの?あ、分かった。彼氏さんでしょ』
「なっ!なんでそうなるの!」
『まぁ照れなくてもいいのよ、そうねぇ…彼氏さんから名前ちゃんを取ったら可哀相ね』
「まだ彼氏だって言ってないじゃん!」
『そうだ!お父さんも名前ちゃんの彼氏さんに会いたいって行ってるから今夜連れてらっしゃい』
「はぁっ!?」


なんで初詣を彼氏と行くってことになってるのか分からないし
なんで今夜連れてらっしゃいになるのかまったく理解できない!
ここまで娘の話を聞かない母親はなかなかいないと思う。うん


「どうかしたのかい?」


私の尋常じゃない焦り方に半兵衛が私に小さく声をかける
話口を指で押さえて私も小声で答えた


「なんか家に半兵衛連れて来いって言ってるの」
「僕を?」
「うん…分かんないけど」
『名前ちゃん?もしかして今彼氏さん居るの?』
「貸して」


待って、の一言を言う前に私の携帯は既に半兵衛の手の中にあって
半兵衛が言葉を発するのがとても怖かった
だって私は生徒で半兵衛は教師
私の親はそんなに厳しくないっていったって2人のことをよく思わないかも知れないのに


「もしもし、お電話変わりました。初めまして名前さんとお付き合いさせて頂いてます、竹中半兵衛といいます」


不安が
私の胸を押しつぶしてしまいそう
かすかに聞こえる母の声が、余計にそれを震わせた


「はい…はい、分かりました。では後ほど名前さんと一緒に伺わせて頂きます、失礼します」


ピッ


ボタンを押して、私に携帯を返す半兵衛の表情は何故か穏やかで
ううん
むしろ嬉しそう


「で、いっ行くの?」
「あぁ、せっかく名前のご両親からご指名されたんだ、遠慮なく行かせてもらうよ」
「だって、半兵衛…教師なんだよ?」


大きな手のひらが、再び優しく私の頭を撫でた


「大丈夫。きっと大丈夫だよ」


その自信はどこから来るの?
もうこの人馬鹿なんじゃないかって疑ってしまう


「もー!なんで半兵衛じゃないのに私がこんなにドキドキしなきゃいけないのよ!」
「さて、さっそく行こうか」
「もう!?」
「待たせてしまっては悪いからね」









絶体絶命ってこういうこと?
(大げさだね)
(そっちが落ち着きすぎてんのよ馬鹿)






















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