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彼女の声も聞かないままもう何十時間経ったのだろうか
仕事に集中している時はそれ程ではないが
それ以外では自分がおかしいんじゃないかと疑いたくなるほどに
名前を求めている
彼女は平気だろうかと心配する前に
彼女の体温を、呼吸を、存在を感じたいと胸がざわめく


プルルルル――プルルルル―


いつもはさして長く感じないコールが異様に長く感じて
彼女の事を考えるだけで自然と頬が緩んでいた


『もしもし』
「名前?今平気かい」
『うん、昼休みだから』


電話から聞こえる彼女の声はいつもの彼女じゃなくて
無理して明るく話している事が直ぐに分かった


「どうだい学校は、僕が居なくて淋しいかい?」
『全然…意外に平気ですよ』
「平気な人間の声には聞こえないけどね」
『……何言ってるの』
「話したくないことかも知れないけど、僕には隠し事はして欲しくないんだ…何があったんだい」














1日ぶりに耳にした優しい声は
今の私の心境にとってはとても絶えられないもので
それだけで涙が溢れそうになった
屋上で、時々吹く強い風に髪を押さえる


「……」
『名前、』


言えないに決まってる
なんて言えっていうの
"貴方のことが好きじゃ無いかも知れません"
"佐助のことが好きかも知れません"

そんなこと言えない


真っ直ぐに愛してるとも言えない


「何も…ない、よ」
『僕には言えないことなのか…』
「何も無いって!」
『名前が僕の目の前に居るなら抱きしめてあげられるけど』


止めてよ
優しい声で、優しい言葉で私の耳を探らないで


『今は違う、だからせめてその不安を取り除いてあげたいんだ。僕にとっての全ては雪那だから』
「………今の…私の全てが、はん…べえだけじゃ、なくても……?」


駄目っていくら心の中で叫んだって
明智先生の言葉が嫌に頭に染み付いていて、涙が溢れる
見られなければばれないのに
鼻声になるのは仕方が無いみたいだ


『……あぁ』


少し戸惑った様子の半兵衛はゆっくりと返事を返す
どくどくと体の中の血液が流れ出るように、一気に嫌なものが溢れた


「明智先生からっ、言われた……半兵衛と、佐助……どっちが…好きかって」

「…半兵衛って、はっきり言えないんだもん……分かんないよぉ」

「分かんないの…半兵衛のこと好きなのに、佐助も…好き、かも」

「ごめん…ごめんなさい、」


私が話している間の何も喋ってくれない半兵衛に
大きな不安と罪悪感が募っていく
ただ謝ることしか出来ない
悪いのは全部私
私の弱さが半兵衛を傷つけてるんだ


「…ごめん…なさ、い」


ピッ


屋上のドアが開く音なんか聞こえなかった
でも気付いた時には涙で歪んだ視界に私の携帯を持った佐助の姿が映っていて
さっきまで半兵衛の声が聞こえていた携帯の通信は佐助の手によって切られていた


「さす、けっ……」


冷たい風と、流れて冷えた涙で
寒さを纏っていた私の体を少し力強く、でも痛くないように佐助は抱きしめた
拒まなきゃいけないのに、貴方じゃないって言わなきゃいけないのに
どうしてこんなに優しく私を抱きしめるのよ


「本当に竹中が好きなら、なんで名前はこんなにボロボロになるんだよ…」


温かい

もういっそ、この人に好きだと言ってしまえたら
こんな弱い私でも愛してくれる?
もう誰も傷つけなくてすむの?


「うえぇっ……ひっく」
「前にも言っただろ、名前が淋しい時も俺様はちゃんと近くに居るって」















スキ
(そんな残酷な言葉、今だけは使わせないで)




















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