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HRが終わって、ざわつきながら教室から居なくなる生徒達
いつもなら皆と反対方向を目指して直ぐに教室を出るのだが
今日は行っても誰も居ないんだと思って少し唇を噛み締めた


「じゃあまた明日、名前」
「うんっ、ばいばいかすが!」


いつもの元気な笑みを作るたびに今日はどれだけの労力を使っただろうか
気を抜けば大きな溜息が落ちてしまう
大半の人間が居なくなった教室は普段感じるよりずっと広くて、
普段見ているより人間の居た形跡が残らない気がする


「…どうしたの、名前ちゃん帰らないの?」


まだ空は青いのに夕焼け色が視界に入った


「ううん、帰るけど…佐助こそ帰らないの?」
「んー?今から帰るよ」


いつもなら空が夕焼け色に染まる頃、半兵衛が暗くなるから帰りなさいって言ってくれる
暗くなってたら誰にも見つからないように家の近くまで車で送ってくれる
その時の半兵衛はちょっと不安な顔をして、家までの短い距離でも暗くて危ないからって
毎回同じようなことを言って心配してくれる
それが嬉しいだなんて、
だからいつも空の色に気付かないフリしてるんだって知ったら怒るかな


「そう…じゃあね。」
「また先生のこと考えてるの?」
「…駄目?」


先生が出張に行ってまだ一日も過ぎてないのに、いつもよりも先生のこと考えてる
本当は不安で不安で堪らないはずなのに
佐助を見れば朝の会話を思い出してほんのり和らぐ
胸に残るのは少しの不安と大きな淋しさ


「別に、いいんじゃない?名前ちゃんが悲しくないなら」
「…」


何かを言おうとしたのか、一度開いた口が何も言葉を生まずにゆっくりと閉じる
何を言うつもりだったの?
もう忘れてしまった?


「ねぇ、今日は一緒に帰ろうよ」
「でも家反対方向だよ」
「いいよその位、女の子が1人で帰ったら危ないしさ」


『仮にも女が1人で歩いて帰ったら危ないだろう?』
『仮にもってなんですか、立派な女性ですよ、レディーですよ』

あれ、なんで私は佐助のこと一時嫌ってたんだっけ
怖かったから
怖く無いじゃん
優しいじゃん、半兵衛みたいに


「では…ボディガードお願いします」
「はいよー」













「ふふっ」
「どうしたの、いきなり笑ったりしてさ」
「いやぁ、なんか佐助と帰ってるって新鮮、初体験だよなぁって思って」


もうすぐ夕暮れを告げるように長く伸びる2つの影が近いような遠いような距離でゆらゆらと揺らぎ
人気の少ない住宅街を過ぎていく


「変な名前ちゃん」
「へっ変じゃない!」
「変だよ」


あはは、といつものねっとりとした笑みではなくて
高校生って感じの笑い方をする佐助
こんな時は薄っすら思ってしまうよ


この人を好きになれたら


なんて、ね


「えっ…」
「ん?どうかした」
「いやっえっと、知ってる?武田先生この間身長測ったら5cm伸びてたんだって」
「マジで!?あの歳で…」
「すごいよねー」


そんなこと思ってない、思ってないよ
でもヤダな
佐助と一緒に居るからって半兵衛のことを考えないようにしてる


「あははっ」


楽しいんだもん
この時間が









深まれ謎
(なんで、なんで)
(分かんないよ、って)

(もしかして気付かないフリ?)












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