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そこで胸が強く鼓動を打ったのは秘密


『受けて立つよ』


だって
初めてあの人以外にときめいた








胸の鎖は病の証








佐助は初めて見たときからカッコ良かった
教室で言葉を交わすようになっても、からかわれるようになっても
いつでもカッコ良く見ていた
でも胸が高鳴ったことは無かった
だから恋愛感情は抱いたことはなかった、全ては過去形


「…はぁ」


なのに、なのに
文化祭の日が頭を離れない
あんなに強気に宣戦布告したのに
佐助に負けるつもりはないのに
あの時不覚にも大きく動いた心臓が私を不安がらせて
どこかで喜んでいるかのよう


「名前」
「なんっすかー」
「僕の前で他の男の事を考えているね」
「…………やだなぁ、そんなことないですよ」


怖い?
怖くない
怖くない
怖くないんだもん
涙を流せばその涙と一緒にこの想いが流れてしまえばいい
前の恐怖がよみがえった方が今の私にはいいのかも知れない


「嘘がつけないね」
「半兵衛は上手すぎると思いますけど」
「珍しい、半兵衛って呼んでくれるんだね」
「もういちいち恥ずかしがるほど初々しくはないですから、誰かさんのお陰で」


暖房の入っていない部屋では手をすり合わせなければ寒すぎる程に一気に下がった気温
なんか今日は午後から雪が降ってくるらしい、ふざけんなと空に叫びたい気分MAXだ

ちなみに期末テストが終わったのは今日
テスト最終日で午前中に学校が終わった為生徒達はそれぞれ遊びに行っている時間だろう

でもやっぱり私は準備室でココアを飲んでいる
ここが一番落ち着く、家よりも、教室よりも
初めは此処に居ることが誰かに見つからないかとかいろいろと緊張していたけど
慣れてしまえばそんなものどこかに落としてしまったようだ


「おや、もう暗くなってきたね」
「話逸らしたなこんにゃろう」
「今日は早く家に帰らなくちゃいけないんだ、これを飲み終わったら鍵を閉めるよ」
「そういえばなんで今日はココア飲んでんですか?」


首を傾げて半兵衛の手元を確認すれば先程から私のカップと同じ甘い香りを漂わせていたココア
いつもは苦いコーヒー美味しそうに飲んでるのに、ココアの素晴らしさに気付いたのかな?


「明日から学校に来ないからね、気分転換だよ」
「へぇ……………はっ!?」


耳に入ってきた予想しなかった言葉に思わず声を張り上げた


「明日から出張で三日程学校を離れることになったんだ」
「待て待て待て待て、聞いてない!なんでそんな急なの!?」
「名前は期末で勉強が一番だったから気が散るようなことは言わない方がよかっただろう?」
「あーもー!もうなんなのこの大人は!」
「たった三日だよ」
「三日でもっ…………」
「でも、なんだい?」


そう嬉しそうに微笑む半兵衛に、なぜか顔が赤く染まっていく


「淋しいのかい…?」
「淋しくなんか……ない、もん」
「本当に?」
「顔が近い」


ぐいっとココアを飲み干して机にカップを置けば半兵衛の顔が近くにあって
離れて、と胸を押す


「本当に、淋しくなんか無い」


今まで何日間か近くにいなくて淋しくなる人なんて居なかったのに


「……泣かないでくれ」


恋すると人は弱くなるって本当だと思う
だってなんでか分かんないけど涙が止まんないんだもん
淋しくないよ、貴方に会えないなんて
分からないよ、止まって涙


「泣いてっ…ない…、…ひっく……」
「三日後の昼頃に帰ってこれると思う」
「うっ……ひっ…」
「時間があったら連絡をするよ」
「……うんっ…」


眉を下げる半兵衛だが、嬉しそうに私を腕の中に包み込んで抱きしめる
いつもよりも優しく、優しく
割れ物を扱うようにそっと頭を撫でる


「明日…は、会えない…の?」
「早くに家を出るからね、無理だろう」
「…そっか」
「すまない」
「ううん、」


私こそごめんなさい、
笑顔で言えないよ
お願いだから今の私の顔を見ないで、胸板に押し付けさせたまま聞いて


「いってらっしゃい」


あぁ、弱くなってる


「行って来ます」









これは貴方がかけた病のせい


















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