※書きたいところだけ、書いた。
※虎徹さんの能力がハンドレットパワーじゃない
※虎徹さんが男装ヒーロー







 憧れのヒーローは誰?

 ヒーローズは全員が全員、程度や方向に違いはあれど、ヒーローオタクだ。
 みんなテレビの中のヒーローに憧れて、憧れるだけではなく、戦い方を研究し、少しでも近付けるよう弛まぬ鍛錬を積んで、この職業に就いているのだから。
 復讐の手段としてヒーローになったバーナビーだって、見本にした戦闘スタイルのヒーローがいる。勉強熱心なバーナビーは様々なヒーローを研究していて、一時期歴代のKOHのありとあらゆる動画を集めていたこともあったのだ。純粋なファンとは少し違うけれど、基本的な知識だけならば、今この場にいる誰よりも広い。
 もちろん、元々は歌手デビューが目的だったカリーナだってそうだ。歌って踊れるアイドルヒーローだから、と言って、完全武装の犯罪者集団が手加減するわけがない。いかにNEXTが強力だろうと、ある程度の下地がなければ、到底犯人を確保するなんてことは出来ないのだ。
 なのでヒーローズ同士で雑談していると、よくこの手の話題になる。お互い好きなもの、知識が深い話題は、やはり毎回盛り上がるというもの。この日も誰が言い出したか、自然と憧れたヒーローの話になったのだった。
 虎徹は、いつものようにレジェンドの素晴らしさを讃えようと嬉々として口を開いた、――その時だった。
「私がやっぱり一番好きなのはねぇ、――タイガーリリィかな!」
 カリーナの上げたヒーローネームに、虎徹と、ついでにアントニオもぎしりと固まった。
 そう言えば、歌手云々ではなく、そもそもカリーナがヒーローズ全員と打ち解けて、こういう雑談をするようになってきたのが、ごく最近だ。振り返ってみると、カリーナから一番好きなヒーローは一体誰なのかを、虎徹もアントニオも今の今まで聞いたことがなかった。
「アラァ、意外に有名どころ上げてきたわねぇ」
「何よ、悪い?格好いいもの!」
「僕も好きだよ、タイガーリリィ!」
「確かに強いね彼女は!そして格好いい!」
「今でも月間レコードは、女性ヒーローだとぶっちぎりのトップですよね」
 突然不自然に固まった二人に気付かず、ヒーローズはタイガーリリィですっかり盛り上がっていた。
 虎徹は、背中に嫌な汗がだらだらと流れるのを感じる。ああああ早く終われこの話、と天にも祈るような気持ちだ。
 しかし、虎徹のそんな祈りもむなしく。
 イワンが、そう言えばと、屈託のない表情で、虎徹とアントニオに声をかけてきた。
「――タイガーさんとバイソンさんは、タイガーリリィと活動時期がかぶってましたよね!」
 …ジーザス。いつもは、虎徹がどんな説教臭いことを言おうが、若手の中じゃ誰より素直に聞き入れてくれるイワンだったが、今日ばかりはその曇りなさが憎たらしい。
 それを聞いたカリーナは、さらに表情を輝かせた。
「ねぇねぇ、タイガーリリィって美人だった?」
 当然、すぐ隣にいたアントニオを見上げてそう尋ねる。
 おい、分かってんだろうな。と、虎徹は頼りない悪友を睨みつけた。その視線に、ひくりと口元を震わせながらアントニオは答える。
「あ、あぁ…、そうだな、美人、だったんじゃないか?うん…」
 …が、しかし悲しいかな、アントニオはつくづく不器用で嘘の吐けない男であった。しどろもどろにそんなことしか答えられないのだ。あとで殴る。
 その慌てっぷりに、あらぁ怪しいわねぇ、とネイサンがにやにやと嫌な笑みを浮かべて、横から茶々を入れる。
「まさかアンタ、――リリィと出来てたんじゃないでしょうね?」
「――ねぇよっ!」
「――ありえねぇっ!」
 ……そして虎徹も、人のことは言えないほど、単純馬鹿だった。
 思わずアントニオと同時に叫んでしまって、みんなの視線がこちらに向く。慌てて虎徹は取り繕った。
「い、いや…、リリィはヒーローズの間じゃ高嶺の花だったからな!アントンが抜け駆けして付き合ってただなんてありえねぇよ!うん!」
 自分で自分を高嶺の花だったなんてよく言うぜ、とアントニオは内心舌を巻く。…しかし、本人は口から出任せで言っているだけだろうけれど。虎徹の知らないところで、リリィは実際当時のヒーローズから絶大な人気があり、抜け駆け禁止令までこっそり出ていたほどなのだ。
 と、いうか、どれだけ美人だろうが、まぁどちらにせよ。
「っていうか、リリィにはヒーローなる前から恋人がいたし、結局そいつと結婚したからなぁ…」
 虎徹がこの馬鹿牛っ!と慌ててアントニオの口を塞いだが、すでに遅し。更に根ほり葉ほりヒーローズから質問を投げかけられるのだった。


--

 かつての上司を呼び出したのは、いつものヒーローズバーだ。根っからのヒーロー好きな虎徹はいつもだったら、店の中央にある大きなスクリーンを心躍らせながら酒を一杯引っかけるのだけれど。
 今日ばかりは見慣れたヒーローTVの映像が、虎徹の気を滅入らせる。
 虎徹のその言葉に、ベンは眉を潜めた。
「――発動時間が短くなってきている?」
「…元々直接触らなきゃコピー出来ないんだ。何年も友恵が触ってないただの指輪だなんて、いつハンドレッドパワーが使えなくなっても本当はおかしくない」
 その時、スクリーンにちょうど映ったのは、今日のヒーローインタビューを受けるバーナビーである。ベンは取り乱しながらも画面の中のバーナビーを指さした。
「でも、だが虎徹、お前の相棒は、ハンドレットパワーのバーナビーじゃないか」
「そりゃ、バニーとバディの間はなんとかごまかし続けられるだろうさ。同じ能力なんだから。――でも、そんなのもう、友恵のワイルドタイガーじゃない」
 オレがずっと守りたかったワイルドタイガーじゃないよ、そう言いながら、虎徹はやけくそに手元のグラスを煽った。
 強いアルコールが喉を焼いて、ますます気持ちを落ち込ませる。
「……もう潮時、なんだと思う」


--

 不敵にも、殺人犯として追われてる男、鏑木・T・虎徹が、ヒーローズ全員をとある場所に呼び出した。曰く、ヒーローズへの挑戦状、だそうである。
 何か魂胆があるのか、それともただの身の程知らずの馬鹿か。
 何にせよこれは良い画が撮れるわ、と舌なめずりして喜んだ視聴率の魔女から、全員で出動せよとのお達しを受け、ヒーロー全員揃い踏みで現場へと向かった。
 呼び出された、とあるビルの屋上には、すでに一つの人影が、ある。
『さぁて今日も始まりましたヒーローTV!これはもうすでに犯人が立っているぞぉ!、………――えっ……!?、そんな、あれはまさか…!!?』
 ヒーローズが到着したのと同時に始まった中継だが、そこに鏑木虎徹の姿は影も形もなく、カメラには、一人の女性が映っていた。
 白いマントをたなびかせ、惜しげもなく足や胸元を晒す露出の多い衣装に身を包んでいて、そしてトドメに目元には白のアイパッチだ。
『……しっ、信じられません…!我々は、白昼夢でも見ているのでしょうかっ!?その名を模した白いヒーロースーツ!8年前と変わらぬそのダイナマイトボディ!シュテルンビルト市民ならば誰もが熱狂したあのヒーローを、一体誰が見間違いましょうかっ!?』
 マリオの感極まった実況が、スピーカーから町中へと響く。
『シュテルンビルトの女王陛下!後にも先にもただ一人、歴代唯一のクィーン・オブ・ヒーロー!!――タイガーリリィィィっ!!!』
 その毅然とした彼女の姿に、ロックバイソンは思わず叫んだ。
「――どうしてだリリィっ!だって、なんでお前は、もう…っ!」
 ロックバイソンの悲痛な声はまるで無視して、タイガーリリィはヒーローズに向かって優雅に一礼してみせた。
「ロックバイソン以外お初だな。どーもよろしくな、現役ヒーローズ」
 所作は現役の頃と変わらず美しく、しかし粗暴な言葉づかいもそのままである。美しい見た目とのギャップがいいんだ、とシュテルンビルト中を虜にした伝説のヒーロー、そのものだ。
 ファイヤーエンブレムが、訝しげな声で尋ねた。
「…伝説のQOHが、一体全体どうして犯罪者の呼び出した場所にいるワケ?」
 余計な野次馬を増やさないためにも、犯人が呼び出した場所は、もちろん一般になんて公開されていない。
 すでに引退したタイガーリリィが当時の衣装のまま出てくる、だなんて不可解極まりないことだ。
「別に、お前らの加勢、ってわけじゃないぜ?」
 のらりくらりとした態度に、バーナビーが殺気立って噛み付いた。
「――ならば、鏑木虎徹側の人間、ということか!?」
「って、いうわけでもないけどな」
 らちがあかないな、とスカイハイが手に風を作って、一歩前に出る。
「どちらにせよ、もう一般人の君が事件現場にいることは許されない。少々手荒だが、強制退場だ」
 そのままタイガーリリィに向かって風が放たれた、――その時だ。
 リリィの前に能力を発動させ、硬化したロックバイソンが庇うように立って。いとも容易くスカイハイの風を弾いた。
「ロ、ロックバイソンさん!?」
 他のヒーローたちが動揺するのにも構わず、アントニオが後ろの虎徹へと謝罪する。
「…すまんな、リリィ」
「わはは、気にするな心の友よ。後でボディをみっちり殴らせろ」
「めちゃくちゃ怒ってんじゃねぇかよ!」
「まさかぁー。いくら殺人犯って勘違いしてさんざ追いかけ回して全力で殴りかかってきてあまつゲス呼ばわりしたとしても、一人思い出してくれた友人を怒るわけないジャナイカー。バーカ、ハーゲ、死ね」
「………その、すまん」
「ま、肉食べ放題で手を打とうじゃねぇの」
 ちょっと泣き出しそうなのをぐっとこらえて、虎徹はアントニオの肩に手を置いた。
「…"タイガーリリィ"で、思い出してくれてありがとな。愛してるぜー親友?」
 ふざけた調子でそう言って、――そのままフルフェイスの上からだったが、ロックバイソンの頬辺りにキスをする。
 途端に、ファイヤーエンブレムがドスの効いた声を上げた。
「テメェ私のバイソンに何してくれとんじゃゴラァ!!」
「いや待て、いつからオレがお前のもんになった!?」
 ロックバイソンの突っ込みは無視して、ファイヤーエンブレムは二人に向かって火を放った。
 ロックバイソンの能力は皮膚硬化だ。ファイヤーエンブレムの炎は効かない。そして、タイガーリリィの能力は――。
「…やっぱり、もう私の炎は効かないわね!」
 ロックバイソンの隣のタイガーリリィも、ファイヤーエンブレムの炎をくらっても平然と立っている。
 そこへドラゴンキッドが飛び出した。電気をまといながらリリィへと蹴りかかる、が、彼女はキッドの足を避け、電気を物ともせず足を掴むと、思いきり投げ飛ばされた。
 しかしキッドはなんなくくるりと回転し、そのまま地面に綺麗な着地しようとした。寸前に、――リリィの手に、見慣れた帯電現象を見た。
「――僕のNEXT!?」
 次の瞬間、近くにいたスカイハイとファイヤーエンブレム、そしてドラゴンキッドが膝から崩れ落ちた。
 もちろん三人ともすぐに立ち上がろうとするが、足が全く言うことを聞かない。
「どうして、こんな弱い電気で…?」
 基本的にドラゴンキッドには電気の攻撃は、よっぽど強い電流じゃないかぎり、効果がない。しかしリリィが放った電気は、キッドがいつもの犯人に食らわすような電気より、ずっと弱いものだ。現に耐性があるキッドだけではなく、スカイハイもファイヤーエンブレムも痛みをあまり感じなかった。それなのに、揃いも揃って立ち上がることすら出来ない、だなんて。
「後学のために一つアドバイスだ、ドラゴンキッド。人間は電気信号で筋肉を動かしてるんだぜ?」
 悪戯っぽく笑って種明かしをするリリィに、更にキッドは驚愕する。あの一瞬で、筋肉の電気信号に合わせて微弱な電流を流したとでも言うのか。
 そこへPDAからアニエスの通信が入る。
『何やってんのよあんたたち!知ってるでしょ、タイガーリリィの能力は、"コピー"よ!』
「おうとも。オレはヒーロースーツの上からだろうが、NEXTをコピー出来る。――その能力を望む望まずとも、その人物に触れば強制的に、な!」
 アニエスの言葉に素直に頷きながらも、斜め前で水鉄砲を構えたブルーローズへとリリィはまた新たな電気を反射的に放って。……放ってから青ざめた。
 氷使いのブルーローズは、電気のNEXTとは相性があまり良くない。
 先ほどと同じくらいの弱さの電流にしてあったが、案の定、きゃああ!っと甲高い声を上げて、ブルーローズがガクンと膝から地面に崩れ落ちそうになる…、のを、リリィがすんでのところで抱き締めて支えた。
「――ほい失礼、っと」
 そして、ついでとばかりにリリィはかがみ込んで、ブルーローズの頬にキスをした、瞬間に。
 ブルーローズの能力をコピーしたリリィが、アントニオ以外の残りのヒーローズ全員を、一瞬で凍りつかせた。
「こんな、一瞬で…」
 あまりの速さにブルーローズは思わず息を飲む。
 今、リリィは水鉄砲も何も使わなかった。だから氷の量も少ないし、ぱっと見、いつものブルーローズの完全ホールドのほうがしっかりと凍らせられているように見える。
 けれど最小限、関節部分を重点的に凍らせて、より強固に、しかしスマートにホールドしていたのだ。今日たった今初めてコピーした付け焼き刃のはずの能力を、ここまで使いこなせるとは。
 リリィは、腕の中で唖然とするブルーローズに勘違いし、慌てて地面へと座らせた。
「ごめん、嫁入り前の女の子に。どっか痛いとこねぇっ?」
 と、矢継ぎ早にとんちんかんな心配をしている。
 バーナビーが、この隙に能力を発動させようか一瞬迷う。ハンドレットパワーならばブルーローズの氷でも容易く砕ける。が、まだ犯人である鏑木虎徹が姿を現していないのに、ここで無駄に5分を使っていいものだろうか。
 そこへ、タイミングよく一人が、氷を砕いて動き出した。
 相棒の意を汲んだように、ワイルドタイガーが、能力を発動させたようだ。
「タイガー…!」
 頼りになるベテランヒーローに、周りからは安堵混じりの歓声が飛んだ。
 その姿に、リリィはそっとブルーローズから手を放して。ゆらりと立ち上がると、憎々しげに笑った。
「…はん。ようやく、化けの皮はがしやがったな?」
 リリィは近くにいたスカイハイの肩に素早く触れる。
「スカイハイ!ちょっと借りるぞ!」
 そう言って、今度は器用に風を操り、タイガーに向かって投げつけた。タイガーも負けじと、真っ向からリリィに拳を繰り出している――。
 激しく攻防を続ける二人を前に、ネイサンはアントニオを睨みつけて金切り声を上げた。
「なんであんた、あんな女の味方に付いてるのよ!?」
「大丈夫だ。あいつは敵じゃない」
 にべもないアントニオの答えに、ますますバーナビーは怒鳴る。
「こんな、完全ホールドしといてですか!?」
「リリィはただ、オレらに"あの野郎"との戦いを邪魔されたくないだけだ」
 あの野郎とは。
 そう言うロックバイソンが睨む先には、ワイルドタイガーしかいない。
 ますます困惑して、スカイハイが首を傾げた。
「彼女は、ワイルド君に一体何の恨みが…!?」
「逆だ。リリィはタイガーを誰よりも愛してる。――だからあんなふざけたマネは絶対に許せない。リリィが止めないんなら、オレだって、あのクソ野郎をギタギタにしてやりてぇよ」
 怒りを滲ませたアントニオに、ホァンがびくりと小さな肩を揺らした。
 いかつい見た目とは裏腹に、アントニオは普段とても優しい男だ。
 そのアントニオが、語気荒く吐き捨てるように言いながら、旧知の友であるワイルドタイガーを睨みつけている。
「いいから見てろ。すぐに分かる」

 そこで、二人の攻防を見ていた折紙が、ふと、あることに気が付いて、呟いた。
「なんで…?コピーなら、タイガー殿のハンドレッドパワーに変わるはずじゃ…」
「!? スカイハイの能力のままだ…!」
 先程、彼女は自らヒーロースーツの上からだろうと能力をコピー出来ると言っていた。現にたった今、堅い装甲で覆われているスカイハイの肩を触って能力をコピーしていた。
 何度もタイガーからの攻撃を防ぎ、風と一緒にタイガーに蹴りかかっているはずなのに。それでも未だにタイガーリリィはスカイハイの風を操りワイルドタイガーへ攻撃している。
 リリィが特大の風をワイルドタイガーに放った。しかし、すんでのところでタイガーが避け、地面へと風が叩きつけられる。かのように見えたが。
 タイガーが一歩足を踏み出した途端、足元のコンクリートが崩れた。先ほど、リリィが風を当てた箇所だ。タイガーは足の根元まで埋まってしまって、動けなくなる。
 リリィは息を整えながら、ゆっくりと笑った。
「さて、皆さんご存知の通り、人体の六割は水分で出来ている。普段ブルーローズは空気中の水分で氷を作ってんだろうけど、さっきタイガーをホールドしようとした氷はよ、スーツの中の水分を凍らせて作ったんだ。――つまり、血液だな。気合いだ根性だで絶対にどうにもならねぇ。物理的に、動けるはずがないんだよ。中身が人間ならな」
 もったいつけながらそう言うと、リリィは手のひらに新たな風を作ってタイガーへと振り下ろす。
「お茶の間に、中身をご開帳〜」
 鋭い風の刃が、ワイルドタイガーのフェイスカバーだけを吹っ飛ばした。その下にあったのは――。
「なっ…ロボットっ!?」
 顔全体が硬質な合金で組み立てられており、本来目がある位置には赤いセンサーが光っている。
 アンドロイドだ。
 ヒーローたちは驚愕して悲鳴に近い声を上げる。
「そんな、だってタイガーは…!!!」
 だって彼は、確かに生身の人間で。お酒を飲みにバーに行って、歌が好きだと言ってくれて、誰にもお節介で、お父さんのように頭を撫でてきて、熱いヒーロー論ばかり語ってきて。だって彼は。……ワイルドタイガーの素顔は、一体どんなだっただろうか。
 全員が狼狽え困惑するのを無視して、氷付けにされたままのバーナビーの元へと、リリィはするりと近寄った。
「ちょっと借りるな、バニーちゃん」
 そう言って、――虎徹がバーナビーの頬にキスをした、瞬間に。
「――どうしてっ…!なんであなたが、タイガーリリィ…?虎徹さんっ!!」
 確かに自分の名を呼ばれ、虎徹は驚いてバーナビーを見上げた。
 困惑した表情で、それでもしっかりとバーナビーは、アイパッチの奥にある虎徹の目を見据えていた。――全て、思い出したのだ。
 虎徹は下唇を噛み締め、バーナビーから視線を伏せた。
「……悪ぃ。後で、ちゃんと説明するから」
 くるりとアンドロイドのほうへと向き直って、タイガーリリィは、新たにコピーした能力を発動させる。
 バーナビー、そしてワイルドタイガーと同じ能力、ハンドレッドパワー。
「さぁて、映画じゃ悪のアンドロイドはスクラップ、と相場が決まってんだよ木偶の坊」
 そうして女王陛下は無機質なロボットを冷たく見下ろして続けた。
「――ワイルドタイガーは、誰にも汚させない」


--

 戦いの直後、重傷を負った虎徹は倒れ、当然そのまま病院の集中治療室送りとなった。面会謝絶の絶対安静で、相棒であるバーナビーでさえ、こうやって話をきちんと出来るのは実に二週間ぶりだった。
「…友恵の夢を、ワイルドタイガーを絶対に失いたくなかった。ワイルドタイガーは、オレの中でとびっきりのヒーローだったから」
 会えなかった二週間、バーナビーは持っていたタイガーリリィとワイルドタイガーの動画を改めて見直した。
 確かに、映像を見れば見るほどタイガーリリィは虎徹そのものだった。ワイルドタイガーになってからは、友恵のワイルドタイガーの戦い方やクセを無理矢理真似ているが、現場での動きや指示・考え方は変わらない。
 それでもいきなり戦いのスタイルを変えることがどれだけ難しく辛いことだろう。今までのタイガーリリィとしての輝かしい実績も、女としての生活も捨てるのにどれだけの決意が必要だろう。どれだけ彼女は、ワイルドタイガーを守ろうと必死だったのだろうか。
「…ヒーロー、辞めたいんですか?」
「たくないよ。やっぱりオレ、ヒーローが好きだ。この街が好きだし、守りたい。お前とバディ組んで、こんな偽物の能力で嘘っぱちのヒーローでも、なんでも出来るし誰にも負けないって思えたんだ」
 それはバーナビーも同じだ。虎徹に背を預ける時は、何にも負ける気がしない。
「でもけじめ、だ。タイガーのファンだけじゃない、リリィのファンも、ヒーローズも、――相棒のお前も、ずっと騙してたんだから。偽物は偽物らしく、いい加減退場しないとな」
 だから、もう。
 そう続ける虎徹を遮るように、バーナビーは虎徹の手を強く握った。あんまりにきつく握ったものだから、ぎゃあっと色気なく虎徹は悲鳴を上げる。
「いだだっ、痛い、痛いからバニーっ…!」
「…そりゃ、怒ってますからね」
 バーナビーの一言に、はっと目を見開いて、虎徹は申し訳なさそうに俯いた。
「……ごめん。謝ったって、お前を騙してたことには変わりないけど、本当に…」
「違いますよ。あなた、本当に何にも分かっちゃいない」
 そっちじゃない。
 バーナビーは例え虎徹だろうと、それだけは許せなかった。
 虎徹が偽物のヒーローだなんて、本人だろうと、決して口にしていいわけがない。
「旦那さんが、どれだけ素晴らしいヒーローだったのかは、知りません。でも僕が知る相棒のワイルドタイガーは、あなただけだ。僕が心から尊敬して、憧れて、背を預けるヒーローは、他の誰でもない、――あなた自身なんです」
 お願いだマイヒーロー、とバーナビーは懇願するように続ける。
「――まだ、ヒーローでいてください」
 真剣にそう言ったバーナビーに、虎徹は呆けるが、次の瞬間、ついつい涙がこぼれた。
 なんとか誤魔化そうと、口を開くが、今度は嗚咽が漏れるばかりだ。そのままとうとう虎徹はわんわんと泣き始めてしまった。

 年甲斐もなく泣き崩れて、みっともないし恥ずかしい。
 それでも今、どうしても声を上げて、泣きたかった。


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以下設定。
虎徹→コピー
友恵→ハンドレッドパワー

虎徹23歳の時にタイガーリリィとしてヒーローデビュー。
遅れて4年後に友恵がワイルドタイガーとしてデビューした。
別に普通に触ればコピー出来るんだけど、他のヒーローから能力借りる時は、ほっぺにキスして能力コピー、がお決まりだった。
一番ちゅーされたのは言わずもがな、ワイルドタイガー。

コピー、一見無双だけど、コピーした本人よりその威力は下がる。
キッドより強い電気は出せないし、ブルロみたく大量に氷は出せないし、ネイサンの炎より強い火力は出せない。みたいな。

2回ほど、女性初のQOHになってる。


30歳の時に友恵が病気で倒れ、そのまま帰らぬ人に。
その時リリィは引退して、こっそりワイルドタイガーとして活動開始。

本当はその人自体に触らないと能力コピー出来ないんだけど、何故か友恵さんの結婚指輪からはハンドレッドパワーがコピー出来る。友恵さんの指輪を親指に嵌めている時は、他の能力者を触っても能力が上書きされない。


詳しい事情を知ってるのはアントニオ、ベンさんだけ。
虎徹が女、とだけ知ってるのはバニー、ロイズさん、斎藤さん、ネイサン、イワン。

ネイサンはヒーローデビューがリリィ引退とギリギリかぶってないから、リリィ=虎徹ってのは知らない。
けど、初対面でネイサンがいきなり虎徹のケツを揉みしだいて女ってバレた。

イワンは擬態のせいで仕方なく。

バニーにはラッキーすけべ的なかんじでバレた。



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