あー、次は、オレの番?

 つっても、オレ霊感ゼロだから、霊的な話は一個も出来ねえんだけど。


 あ?何?
 ならなんで怪談話しようぜって言い出したんだ、って?

 そりゃお前…、ほら、夏だし怖い話で涼みたいじゃん、風物詩だし。
 …って、バニー、てめ、心底馬鹿にした目で見やがって!


 じゃあ、オレがデビューして一年経ったくらいの頃の話な。
 怖いっていうか、結構グロい話にもなるんだけど、そこの女子2人は、そういう系平気?

 …あー、もう面倒くせぇな(笑) ハイハイスミマセンデシター、そちらのレディーはグロ系大丈夫ですかぁー?


 その頃のオレは、期待のスーパールーキーで人気絶頂でさ。

 うるせーやいブルーローズ、そんな時代もあったんだよっ!
 おっ、お前は本当に可愛げがあるな、折紙!お前だけ、あとでアイスおごっちゃう(笑)


 その頃は、ヒーローもまだ司法省じゃなくて軍の管轄でさ。
 …え、そうだよ?元々は。オレもアントニオも、まだ在籍だけはしてるぞ?

 だから、テロリストとかの現行犯だけじゃなくて、殺人事件の容疑者の取り押さえ、とかもやってて。

 いやぁ、さすがに、凶悪犯だけだって。
 ……まぁ、そりゃ、違憲だろ。軍管轄じゃなくなった理由って、それだろうし。


 その日、オレに応援要請がかかったのは、ビリー・ケントスっていう殺人犯の取り押さえだった。

 こう言うと、聞き覚えがあるだろ?"人食いビリー"。

 そーなの。お縄にしたの実はオレなの。
 そーそれそれ。あまりにむごく殺して食ったから、報道規制かかったやつ。


 そいつがどんな殺し方したかはまぁ割愛するけれど。

 とにかく、オレが先陣切ってそいつの自宅に突入したんだ。

 まぁ、取り押さえ自体は、実際呆気なく成功したよ。せっかくの防刃ベストも意味なし。
 そりゃ当たり前だよな、自宅のベッドでうとうとと舟漕いでたところに、いきなり現役バリバリのヒーローが組みかかっていったんだから。


 当然、ビリーはいきなり現れたオレたちに動揺して、暴れ出そうとした。――その時だった。

 ビリーは、取り押さえたオレの顔見て、興奮して声を上げたんだ。
 "嘘だろ!?夢みたいだ、ワイルドタイガー!"、ってよ。

 オレは一気に血の気が引いたね。

 お前らも知らなかったくらいだから、分かると思うけど。
 オレたちヒーローがそういう一般事件の捜査協力をしてることは、絶対に秘密だった。軍の最高機密ってやつ。

 だからオレはその時、もちろんヒーロースーツなんか着てなくて、警察官の格好で、NEXTも発動してなかった。
 アイパッチだって付けてなかったのに、オレの素顔を見て叫んだんだよ、"ワイルドタイガー!"ってさ。


 確かに、見覚えの、ある男だったんだ。
 デビューしたての、まだ人気のそんなになかった頃から、手紙も送ってくれて、熱心にイベントに来てくれる、ファンの一人だった。

 呆然としてるオレに気付かず、ビリーは興奮して話し続けるんだ。


 最近のあなたはどんどん人気になっていくからこうでもしないと気付いてくれないんだ。
 人を殺してその手で、あなたの握手会にも参加したんですよ。
 人のミンチが入ったパイを送ろうかと思ったけれど、でもトップマグが食品の贈り物は禁止しているから。
 あなたの自宅に直接送ろうとしたんだけれど、娘さんまだ離乳食も食べられないんだもの。せっかくだから家族全員で食べてほしいからもう少し待たないと。

 うん、その頃は、まだ娘とも一緒に暮らしていたから。
 バレてんのね、人食いに。素顔どころか、自宅も家族構成も。


 もうオレはその時、半狂乱になって叫んだよ。

 なんで、こんなことしたんだって。こんなことして、オレが喜ぶとでも、お前のことを好きになるとでも思ったのか、って。


 そしたらそいつ、子供みたいに無邪気に笑って答えたよ。


 "でもこれであなたは少なくとも、これから先十年は、オレのことでうなされるでしょう?"、ってさ。



 いやぁ、本当に、オレのヒーロー人生でぶっちぎりで背筋の凍る話だぜ!これ越えるのはなかなかないだろ?




 え?

 いや、そんなんで、人殺してあまつ食っちゃう奴の考えてることなんか、オレにゃ分からんけど。


 …へ?なに、オレが、だって?
 そりゃ、さすがにその後しばらくノイローゼみたくなったぜ?


 ………あぁ、いやまぁ、うーん…。えーと、だってさぁ。



 オレが、ちっとも微塵も、気にも止めてないってのが、犯人への、一番の意趣返しだと思ってんだけど?






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