パァン、と、鋭い音が耳を劈く。
 それが銃声だと分かってはいたのだが、バーナビーはすでにNEXTを発動してしまった後だった。

 アカデミーの講義では、バーナビーのように時間制限のあるNEXTは、まずむやみやたらに力を発動させないことから教わった。
 思うがままに発動させて、肝心なところで時間切れを起こしていたのでは、ヒーロー活動どころか、自身を危険に晒すかもしれない。まずは、状況の確認。それから発動させるように。
 バーナビーは心から納得し最もだと思ったので、そうなるよう努力したのだが。何せ物心ついた頃からNEXTだったバーナビーは、何か身に危険を感じれば、瞬間的に意識せず能力を発動させてしまうことがままあった。
 ウロボロスの情報を集めるためとはいえ、まだ年端も行かぬ時から治安の悪いブロンズに入り浸っていたことも大いに関係しているのだろう。ブロンズでは、ただ道を尋ねようと話しかけただけでいきなり殴られることだって珍しいことではない。
 ただの小さな子供だったバーナビーは、身を守るために、意識するより早く能力を発動させてしまう癖付けをしていたのだった。

 そして、運の悪いことに、情報収集のためでもなんでもなく、たまたま近道をと通りがかったブロンズで、逃走中の強盗に出くわした。犯人は、犯行直後でずいぶん興奮していたようだった。角を曲がって鉢合わせたバーナビーを見るなりいきなり発砲してきたので、反射的に能力を発動させてしまった。
 頭では分かっていても実戦では到底コントロール出来ないのだな、とどこか呑気なことを考えつつ、ハンドレッドパワーならば拳銃でも怪我をすることはない、と安心する。

 しかし、次の瞬間。
 視界がぐるりと回って、上へと強く引っ張られる感覚。
 風を切り空を飛んでいるのだとは分かったが、状況は全く飲み込めず、体はすっかり固まった。
「間一髪、ってな」
 上から、女性の声が降ってきた。見上げれば、黒髪の、アジア系の女性と目が合う。
 バーナビーは、もう14歳だ。まだまだ筋肉が未発達ではあるが、女性に持ち上げられるほどウエイトは軽くないはずなのに、軽々とお姫様だっこで持ち上げられていた。
 そのまま、とんっと、彼女は二階建てのアパートメントの上に着地する。今さっきまで地上にいたはずなのに、何がどうなっているやら、と混乱するバーナビーを置いて、女はとことんマイペースだった。
「あれ?お前、NEXTか?」
 地面にそっとバーナビーを置きながら、青白く光った瞳を覗き込んで、女はそう尋ねる。
「は、はい、一応…。パワー系の」
「そっか。なら、一人で避難出来るな?」
 そう言う彼女は、すでに逃走していた犯人がかけて行った方向を鋭く視線で追っている。
 バーナビーは女が犯人を追おうとしていることに気が付いて、思わず声をかけていた。
「あなた、犯人を追いかけるつもりですか?無茶です、すぐにヒーローが来ますから、そっちに任せて…!」
 バーナビーは仮にもアカデミー生でヒーロー志望だ。
 無謀な行動に移ろうとする一般人に、マニュアルに従って避難を促す、が。
 その女性は、どこ吹く風で、悪戯っぽく人差し指を口元に当て、笑った。
「ーー俺のことはひとつ、ナイショで頼むぜ?」
 目元に、素早く黒のアイパッチを貼り付けてる。見覚えのあるその特徴的な形のアイパッチに、バーナビーは呆気に取られる。
 先ほどの救出にもこれを使っていたのだろう、手首に仕込まれていたワイヤーを上へと放って、軽やかに飛んだ。瞬く間に向かいのビルの屋上へと着地する。
 そこで初めて、彼女はNEXTを発動させてみせて。
 その瞬間まで、全くの能力なしでバーナビーを持ち上げ、空を飛んでいたことに気付いて、バーナビーは息を飲んだ。
「ーーさぁて、ワイルドに吠えるぜ!」
 最近デビューしたばかりのスーパールーキー・ワイルドタイガーが、吠える。
 そう言って飛び出して行くヒーローに、バーナビーはあっという間に心奪われた。
 すっかり夢中になっていて、人目をはばからず歓声を上げたのだった。





 銃声と、アニエスとやらのテレビプロデューサーの指示が飛び交って、じわりじわりと犯人を追い詰めていく。今夜の捕り物ショーも、いよいよ佳境だ。

 ワイルドタイガーがやっとのことで犯人を確保したけれど、次の瞬間、氷に足を取られた彼女が、落ちる。
 そこで、マーベリックの指示を待たず、バーナビーは両手を構えて飛び出した。

 ただの観客Aではなく、ようやくヒーローとして、彼女と肩を並べられることに胸踊らせながら。






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