影の伸びた夕暮れの帰り道。さっきまでの土砂降りやの雨がまるで嘘みたいに、雲の間から夕日が水たまりにきらきらと反射して差し込んでいる。湿ったアスファルトは滑り止めの付いたローファーのゴム底と上手く空気を作って音を鳴らした。
 歩きながら、歩美はクラスメイトの女子の父親が福井に単身赴任する、という話題を思い出した。
 その子には高校に今年受かったばかりの姉がいるので転校することはないという。それでもその子はずいぶんと沈んでいた。今時の女子中学生にしては珍しく父が好きな子だった。
 小学生の頃は、転入生がもっと身近にあった。一年のうちだけでも何人もいたし、毎年一人はクラスから転校していった。
 また遊ぼうね約束だよ、と涙を流して、別れたのだけど、幼いながらに、歩美はなんとなく理解していた。転校先の何々県がどこにあってどう行くのか分からないし、そこまで行く力など小さな私たちには到底ない。これは永遠の別れ。もう二度と、会うことなんかないんだろうと。
 私の日常から消えた彼らは、私とは違う世界に行ってしまうのだと思った。
 幼かった私の世界を変えるのは、いつでも彼らだった。
 小学校を卒業するまでそれこそ毎日一緒に遊んで私たちは、もう違う世界にいる。光彦は私立の中学にいってしまったし、元太も、二人きりになってしまってはずっと話しかけづらい。そして、それよりずっと昔に消えてしまったもう二人は――。

 来年は受験だ、と歩美は出来損ないの頭で考える。再来年にはもう私は高校生になっていて、また新しい出会いがあり、そうして新しい世界が生まれる。

 それでも転入生は、もうきっと二度とやってこないんだろう。
 歩美はちょうど足先に掠めた小石を、方向も見ず思い切り蹴り飛ばした。





シェリング・フォード……24巻参照。出来損ないの名探偵。



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