長期休暇を利用して、目指すのは、西海岸。欲してるのは、非日常と、開放感。いつもより少しだけ露出の多い服を、小さなスーツケースに放り込んで、向こうについたら、まずは、冷えたカクテルで、気分を上げたいな。

『隣、空いてるか?』
「え?ええ」
『隣人がうるさくてな。少し、間借りさせてくれ』
「どうぞ」

ぎ、と座席が揺れて、少しだけ窮屈さが増す。エコノミーの悲しさね、と、何となく、つけていた映画を消した。
伸びかけの髪に、まばらに散った無精ひげ。強い煙草の香りに、相当なヘビースモーカーだとわかる。少しだらしない、というか、粗野な印象を受けるけれど、容姿自体は、隙のない精悍さに彩られている。
目を奪われていたことに気付いたのは、少しだけ陰の落ちた瞳に見つめられたから。

『よお、』
「、こんにちは」

近寄りがたい雰囲気は、に、と口の片端をつりあげることで、すぐに緩んだ。クロスヘアーズ、と名乗った彼に、行きずりの関係に本名は言わないか――、と、少しだけ寂しく思いながら、下の名前を名乗る。
意外にも気さくな喋りによって、すぐに打ち解けられた。

『――不思議なもんだな。こんな鉄の塊が飛ぶなんて』

至極真面目な顔で言い出したクロスヘアーズに、思わず吹き出す。す、と伸びてきた腕が、私の目の前を通って、材質を確認するように窓あたりを彷徨ったのに、心臓が少し跳ねた。

「、どういうこと?」
『いや、まあ。……窮屈で嫌になるわ』

ぐ、と伸びをして、もぞもぞと座席の上で動く。

『自分で飛ぶほうが、よっぽど気持ちいい』
「スカイダイビングとか?」
『――ん、まあ、そんな感じだな』

不思議な人、という印象。とらえどころがなくて、旅をするとは思えないほど、ラフな格好に、少ない荷物。というより、手荷物がない。
予想通り、ヘビースモーカーだと漏らした彼は、喫煙室が気になるのか、ちらちらと、背後に視線を飛ばしている。照明の落とされた機内で、急に、クロスヘアーズは立ち上がった。

「……行くの?」
『ああ……、んな顔すんなよ』

口端を歪めて、クロスヘアーズは、頭をかいた。伸ばされた乾いた掌が、私の頬をざり、と撫でる。

『ちゃんと楽しめよ。行先は同じだ。会ったら、そん時は、酒でも飲もうぜ』
「うん。――――……気を付けてね」

自然と零れ落ちた言葉。いつもどこかに顔を見せている、彼の緊張感に対してだったのかもしれない。一瞬、目を見開いて、彼はくしゃりと笑って、去っていった。



――意外にも、再会はすぐだった。空港に降り立つなり、なんだか、人間味のないスーツ姿の男たちに拘束されて、車に押し込められたと思ったら、急に始まった激しいカーチェイス。追ってきたのは、緑のスティングレイ。
何が何だか、理解が追い付かないと混乱していたら、テレビでしか見たことがない、機械生命体同士の戦いに巻き込まれて、気が付いたら、スティングレイの後部座席で横たわっていた。
夜闇を走る高級車の運転席には、誰もいない。悲鳴は、カーラジオから響いた記憶に新しい声に、遮られた。平気か、なんて――、そんな、



Jesus!!