『"おにぎり" "ウィンナー" "オクトパス!!"』
「はいはい、たこさんウィンナーね」

びい、びい、と、ノリのいい音楽に合わせて、身体を揺らしているバンブルビーに、苦笑する。早起きして作ったお弁当に、動きやすい恰好を選んで、意気揚々と、ビークルモードに変形した彼に乗り込んだ。
フリーウェイを走ること一時間ちょっとで、高層ビルのない郊外へ抜ける。さらにさらに、バンブルビーは、逸る気をそのままに、タイヤの回転数を上げた。
林を過ぎれば、視界が急に、開ける。

「っ、すっ、ごーい!!」
『"私の" "とっておきなのよ"』

バンブルビーと同じ、視界に広がる、鮮やかな黄色――ひまわりの花畑。

『ナマエ "見せたかったんだ" "一緒に" "見たかった"』
「……うん」

静かに、バンブルビーは、エンジンを切った。



打ち捨てられたコンバインの上に、バンブルビーと並んで座る。とりとめのないおしゃべりをしながら、お弁当はすぐに、バンブルビーのおなかに消えた。

「足りなかったかな?」
『"大満足" "であります!"』

びしり、と敬礼したバンブルビーに笑う。戻ってきてすぐに、この姿を見せられた時は、もちろん、戸惑ったけれど、言動はもちろん変わるわけがなくて、もう慣れた。
ブライトイエローの髪には、黒いメッシュが入りまじり、髪は綺麗な青――まるで、今日の空のように。

「ここにいると、まるでビーに抱っこされてるみたい」
『"なんと!!"』

両手を広げて、おおげさに驚いたジェスチャーをしてみせる。彼は、人の姿でいるときも、絶対にバトルマスクを外さないから、表情のわかりにくさを補うために、身振りを大きくしてくれていると、私はちゃんと、知ってる。
ぎゅうっと、抱きしめられて、バンブルビーの肩口に顔を埋める。

「もちろん、ビーがいてくれたら充分」

きゅい、と聞こえる機械音。耳をつければ、人の鼓動の代わりに、硬い部品のこすれあう音と、静かに排気が行われる音。

『〜〜〜〜〜っ"鬼ごっこ" "したいのです!!"』
「っ、ビー?」

きゅうきゅうと、顔を赤くして、バンブルビーはひまわりの壁の向こうに、走っていった。慌てて、荷物をまとめ、そのあとを追いかける。



「……ビー?」

ついさっきまで、ひまわりに紛れそうになりながらも、確かに見えていた背中。
乱れた息を抑えるために、開けた場所に立ち止まる。さらさらと風が、目の前のひまわり達を揺らす。髪に視界を遮られて、慌てて払った。息が苦しい。なんの気配もしないのに、涙がにじんだ。
数年前に、バンブルビーがいなくなったのも、こんなふうに突然だった。

「ビーどこ?……ビー」

バンブルビー、と名を呼んでも、答える声はない。涙を拭って、ひまわりの群れに飛び込んだ。探さなければ――、彼が、ひまわりに呑み込まれてしまわないように。走って、走って……走って――、果てのない黄色の中、ようやく、確かなものを、手に掴んだ。

「……また、いなくなったかと――、思った」

ぼすり、と抱き留められて、大きく息をつく。そのままへなへなと崩れ落ちた私に、わたついてから、バンブルビーは本来の姿へと、――変形した。
びっくりして固まった私を掌にのせて、ゆっくりと立ち上がる。
埋もれそうだった花の中から、掬いあげられる。見下ろしたひまわりは、太陽に向かって真っすぐに、その首を伸ばしていた。

『――"ずっと、傍に"』
「……、うん」
『"愛しています"』
「私も」

首を伸ばして、バトルマスクの上から、口づけから送った。愛してる。こつり、と、額をフェイスパーツにつける。

「これから先は、ずっと、どこに行っても、追いかけるんだから」




太陽に恋してる